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8月になり、お盆休みを少し前倒しで取得し、シズさんの故郷へ行くことになった。
私は大きな荷物を玄関に準備して、携帯のメッセージを何度も確認する。
「シズさん、体調どお?もうすぐ佐伯さん達が迎えに来るよ」
「うむ、万全じゃ」
シズさんは元気な振りをしているけど、ここのところ一気に弱った。
暑さのせいもあるのだろうけど…。
間もなく97歳になろうとするシズさんの身体は、人間界に戻って、老化するのを思い出したかのように弱っていく。
果たして本当に妖精界から連れ出して良かったのだろうか。
妖精界へ帰そうにも、やっぱり夏の今でもこんなご老体を池に落とすわけにいかない。
悩む私にシズさんは「皆にまた会えて感無量じゃ。本当にありがとうな」と言ってくれる。
携帯にメッセージが届いた。
「佐伯さん、ここに着いたって。みんなが乗ったバスは先に行っているらしいよ。さ、行こう」
何故かその旅に沢山の妖精界経験者が同行する。海外からも多数参加だ。
私達は佐伯さんが運転するワンボックスカーに乗り込み、シズさんの故郷のH県を目指し、出発した。
「当時ワシの両親は既に他界しとっての、ワシは大地主の屋敷で女中をしとったんじゃ。そこの坊ちゃんとワシは恋に落ち、反対され、駆け落ちしたんじゃ。坊ちゃんは三男だったとはいえ…恩を仇で返すような真似をしてしまったんじゃ」
若さゆえ、ふたり手を取り合って浮かれている時に池に落ちた。
新天地どころか異世界での生活となり、苦労も多かったけどふたりが一緒だったから、夢のような毎日だった。
シズさんは、まるで昨日のことのように思い出すわぃ、と言って目を閉じ、そのまま目的地到着まで眠ってしまった。
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