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私達もバスも無事H県に到着し、旅館でチェックインする。
大女優もご一緒ということもあって、高級旅館だ。
妖精界から帰還した皆、それぞれ各分野で成功を収めている。
佐伯さんのように、本当に自分がやりたかった方向性を守り抜き、実を結ばせている。
私ももう少し妖精界に滞在していたら、何か変わったかな。
いや、今の仕事内容が好きなのには変わりない。
自分が提案した企画でクライアントが喜び、直接手掛けることができる会社の規模にも満足している。
賞を獲る、というのは確かに目標だ。
だけどそれは努力の結果であって、それが目的では無い。
人の心を揺さぶることが出来る広告を作る。
それが私の仕事の意義だ。
旅館のロビーではシズさんを皆が囲い、静かに談笑している。
そこに、エントランスから車椅子のご老人が若い男性に付き添われ、こちらに向かってきた。
「……シゲさん!」
「シズさん、おかえりなさい」
サプライズで登場の、車椅子のご老人は震える声でシズさんの名前を呼んだ。
……シズさんが明らかにお若い方を見て「シゲさん」と呼んだことに、気がついていない振りをしようと皆、心の中で思った。
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