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ただいま
シズさんは皆の協力を得て、あのままH県で2年間滞在した。
「シズさんと過ごしたあの5年間は、今でも私の宝物ですよ」と言うシゲさんの言葉に頬を染めるシズさんは少女のようだった。
そして、沢山の人に見送られてこの世を去った。
「今度は僕が、君を追いかける番ですね」
そう葬儀で語りかけたシゲさんは、程なくしてシズさんの元へ旅立った。
シゲさんもまた、人間界へ戻った時にお世話した人を訪ねたらしい。
時代も時代だし、探すには相当な苦労があっただろうけど、その情報のおかげでほとんどの忘れ物を、ご本人もしくは身内の方に届けることが出来た。
最終的に残った数個の忘れ物を見て、シズさんはため息をついていた。
「あぁ、こやつらは…エネルギーの『それ』を残さずおらんなったヤツらやのぅ」と。
え、それって、本気で怖い話なんですけど。
つまり、人間界には戻らず…。
シズさんは私に「ミソノとユウには感謝しきれん。ありがとう」と最後に言葉をかけてくれた。
これで良かったんだ、と思えるようになった。
佐伯さんはシズさんが亡くなる少し前に、私に結婚を前提にしたお付き合いを申し込んでくれた。
私はもう30歳ではあるけど、今は恋愛をする気分ではないと丁重にお断りをしたら「期間限定の振りで良いから。シズさんを安心させたい」と言われてしまった。
私はその案に便乗し2人でシズさんに報告した。
その時のシズさんの一瞬見せた悲しそうな顔が忘れられない。
「さて、そろそろ行かなきゃな」
34歳になった私は、ちょっとお高めのドレスに着替え、コートを羽織る。
マンションの自分の部屋に飾られた大きな1枚のパネルを眺め、微笑む。
H県で撮影した、シズさんとシゲさん、そして2人にお世話になった皆との集合写真だ。
佐伯さんが作ってくれた。
そして、自分でプリントアウトした1枚の写真に「行ってきます」と声をかける。
妖精界で撮った、青山君と私のツーショット写真に。
今年、ウチの会社がとある広告賞を受賞した。
今日はその受賞パーティーをホテルで開催する。
招待客として写真家の佐伯さんをはじめ、何人か妖精界経験者を招いている。
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