忘れるわけないじゃん。

あなたは、誰？

「何を忘れたの？」

　私は警戒しながらも、彼に尋ねた。

「ひかりちゃん、最近悲しいことなかった？
　1年くらい前に」

　彼は私の質問を無視して、質問を質問で返した。

　1年くらい前。あったよ。悲しいこと。
　とてもとても、辛くて悲しいこと。

　でも、なんでそれを君が知っているの？

　彼は首を少し傾けながら、青い瞳で私をじっと見つめた。

　その目を見てると、思い出す。
　1年前にお別れした、愛犬のジベルを。