4.離婚届

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4.離婚届

 次は40代前半位の千葉(ちば)さんという女性の家だった。 「えっと、千葉さんは……ん? 離婚届? 離婚届を忘れたんだね」  ガイドが書類を見て千葉さんに聞く。 「はい、そうです」  ガイドは千葉さんを連れ、すうっと家の壁を通り抜けて中へ入っていった。  俺たちは、窓から中を覗いていた。離婚届を取りに戻るというのはどういう事情があるのか……。皆、興味津々だった。  家の中では千葉さんの旦那さんらしき人が、中学生位の息子と二人でハンバーグの夕飯を食べているところだった。 「うまいな、これ。ママの味に似てる」と旦那さんが褒める。 「でしょ。これはママと一緒に何度か作ったから覚えてるんだ」  息子が嬉しそうに答える。  見ればサイドボードに置かれた千葉さんの遺影の前にも、ハンバーグが供えてあった。 「これからは二人で頑張っていこうな」  夫が言うと、息子は「うん」としっかり肯いていた。  千葉さんはそんな二人をぽろぽろ涙を流しながらしばらく見ていたが、ガイドに促され別の部屋へと向かった。戻ってきた時には、離婚届を手にしていた。  千葉さんは夫と子供の側に近寄り、二人を抱きしめた。といっても、死んだ身体は透明人間のようで、通り抜けてしまって二人は気づかない。
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