1.川留め

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1.川留め

「皆さんのテーブルにあるのが、副葬品。つまり、皆さんの御家族、御親族、御友人が棺に入れてくれた想い出の品々です。一応、ご確認ください」  事務的な説明がマイクを通して響く。  死んだらお花畑に行くとか、光に包まれてとか聞いていたが、そんなことはなかった。  気づいたら、勤めていた会社の研修室よりはやや高級そうな広い部屋の、長テーブルに2脚ずつ配置された椅子に座らされて、先ほどからあの世のオリエンテーションを受けていた。  俺と同じように経帷子(きょうかたびら)手甲(てこう)脚絆(きゃはん)、白足袋、頭巾という死装束の老若男女が 50人ほど座っていた。 「副葬品に衣類がある場合は、後ほど男女別の更衣室をご案内しますので、そこで着替えていただいて構いません」  俺の目の前にも妻が入れてくれたのだろう、愛用していたジャケットやズボンがあった。 「ここで皆さんにお詫びがあります」  あまり申し訳さなさそうな感じもせず、説明は続く。 「本来なら、このあとすぐに三途の川を渡ってあの世へご案内するところなのですが、先週の川留めのせいでかなりの死者がこちら側に溜まってしまい、皆さんが渡し舟に乗れるまでにはまだ少し時間かかります」  そう言われても死んでしまった身では、急ぎの用などあるわけないしクレームを言う奴はいなかった。
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