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「そ、そこに……あっくんが、あっくんが立ってる」
「お前ら二人とも呪ってやる! 死ねーー!」
彼女と船木さんが同時に叫び、慌てた様子でガイドが船木さんを止めようとするが力及ばず、船木さんは両手を振り上げ二人の方へ近づいて行った。
しかし……。誓約書には、『現世の人を傷つけない。破った場合は厳重な処罰を受ける』となかったか……?
「待った! 船木さん」
俺は思わず船木さんの前に立ちはだかった。
船木さんの振り下ろした腕は、俺の頭を一撃した。あれ? こういう場合、すり抜けるんではないの?
ガイドは慌てた様子で、脳震盪状態でふらふらする俺と船木さんを引っ張るようにして外に連れ出す。
「袴田さんのおかげであんたも私も助かったんだよ」
一息ついた俺の前で、ガイドはそう船木さんに説教する。
もし、死者が生きた人間に危害を加えたら、船木さんが厳重な処罰を受けるばかりかガイドの成績にも関わるのというのだ。
俺たちは窓の外から、船木さんの彼女の部屋をのぞく。
彼女はわんわん泣いていた。
「おい、おい。琴美ちゃん、どうしたんだよ」
「い、今……。確かに死んだ彼氏がそこに……」
「何、おっかないこと言ってるんだよ」
「もう、帰って。やっぱり忘れられない。あんたじゃ駄目。もう帰ってよ!」
「なんだよ、寂しそうにしてるから慰めてやろうと思ったのによ」
そう言うと男は乱れた髪を直し、身繕いを整えると、逃げるように部屋を出て行った。
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