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「最後の入院の前、彼女に手紙を書いていたんです。今までありがとう、俺が死んだら、前を向いて俺の分まで幸せになってくれって」
キャビネットにしまっておいて、死んだら読んでもらおうと思ったのに、伝えられずにいたのだそうだ。
振り返った船木さんは白い封筒に入った手紙を持っていた。船木さんはそれをまるで風で落ちてきたみたいに彼女の前に落とす。
泣いていた彼女は、え?と言う顔をして封筒を手にしてきょろきょろするが、船木さんの姿は見えない。
彼女は封筒を開封して、船木さんのメッセージを読む。
「あっくん、あっくん……ありがとう」
彼女はしばらく泣き続けていた。
しかし、やがて顔を上げて、「あっくんの分もがんばって生きるからね!」とまるでそこに船木さんがいるのがわかっているみたいに力強く宣言した。
船木さんはすごく安心した顔で、俺たちと外に出た。
「皆さん、ありがとうございました」
石田老人も、千葉さんも、そして俺もすごく晴れやかな気持ちになった。
「忘れ物なのに、持って帰らないのは……」
一瞬、ガイドは悩んだが、俺たちに睨まれて、「ま、いいか。誓約書には特に禁止とは書いてないからね」と見逃してくれた。
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