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6.ビニール袋の中身
「さて、最後は袴田さんだね。切手のスクラップ帳だったね」
ガイドが書類を見ながら言う。
「なんか、その……すみません」
皆それぞれに感動的な物語がある中で、趣味の切手とはなんだか申し訳ない思いが言葉に出た。
「さて、じゃあ入ろうか」
ガイドに促されて、懐かしの我が家に入る。皆は窓から見ているようだ。
リビングの隣の和室に小さな祭壇が設けられていて、遺骨が安置されていた。自分の遺骨と対面するというのも不思議なものだ。
祭壇の前には妻と息子、娘が集まっていた。初七日が終わったところのようで、妻は喪服、子供たちは制服を着ていた。
「もっとさ……」
高校生の息子がつぶやく。
「親父と話しておけばよかったな。人を助けて死ぬなんてさ、なんかかっこいいよな。馬鹿だけどさ」
「私も……」中学生の娘が口を開く。「臭いとか、汚いとか言わないで、もっと優しくしてあげたら良かった」
俺は二人の言葉に涙腺が崩壊しそうになる。
「お父さん、きっとわかってるくれてるよ。あなた達がお父さんをどんなに大好きか」と、妻が言った。
「お父さんは最後まで立派だったけど、そんな立派じゃなくても良かったのよ。私はね……」
妻が続ける。
「来年、結婚20周年だから、二人で旅行に行きたかったな。あなた達も大きくなったし、もう二人で出かけても大丈夫でしょ? おじいちゃん、おばあちゃんになっても、友達みたいに仲良く暮らしたかった……」
妻の心の内を初めて知り、俺は初めて自分が死んでしまったという現実を目の当たりにして心から後悔した。
「恵、すまん! 本当にすまん!」
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