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「でも、きっとお父さんのことだから……」と妻が続けた。
「今頃、自分が私たちを置いて死んだことを後悔してるに決まってる。だから、天国のお父さんが安心できるよう、三人で仲良く頑張ろうね」
妻の言葉に子供たちが肯く。その姿に堪えきれず俺は床に突っ伏して泣き続けた。
「袴田さん、そろそろ……」
そんな俺にガイドが声をかける。
俺は立ち上がり涙をぬぐうと、2階にある自分の書斎に移動する。外で見ていた石田老人や千葉さん、船木さんも2階の窓をすり抜け中に入ってきた。
俺は本棚にある切手のスクラップブックに手をかけるが、ふと本棚の隅に無造作に置いてあるビニール袋に目を留めてはっとする。
それは部下の田中、命を救ってやった田中が、以前アメリカ出張の土産に買ってきた無修正のエロ本だった。スーツケースの底に入れてこっそり持ち込み、「お土産です!」とニコニコ渡されたが、そんなもの興味もなく本棚に置いたまま忘れていた。
俺は思わず千葉さんを見る。千葉さんの離婚届ではないが、こんなもの、遺品整理で妻が見つけたらどう思うだろうか……。田中の奴め、最後まで面倒かけやがって!
「あの……、忘れもの、変更できませんかね? 切手のスクラップからこっちに」
ビニール袋を指差した。
「それは駄目だね。誓約書に『申告した品物以外は持ち出さない』ってあるだろ?」
「そこをなんとか……。切手はあきらめますから」
妻がもしこれを見たら、ひどく傷ついてしまうからと話した。
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