6.ビニール袋の中身

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「いいんじゃないんですか? ささっと誓約書を書き換えちゃえば」  船木さんが助け舟を出してくれた。 「そうだよね。俺たち絶対口外しないから」 「そうですよ。ガイドさんだって、さっき、袴田さんのおかげで助かったって言ってましたよね?」  石田老人や千葉さんの心強い援護射撃にガイドは、「もう、仕方がないね。特別だよ」と言うと許可してくれた。  俺は感謝してエロ本の入ったビニール袋を持ち出す。 「で、中身はなんだい? 品名を書き換えるから見せておくれ」  ガイドに言われて渋々中身を出して見せると、「……」その場の全員がドン引きしたのがわかった。田中めーー!  俺はもう一度階下に降りて、最後に家族三人の顔をしっかりと見た。 「ごめんな、先に死んで。あの世から三人をずっと見守ってるからな」  俺は聞こえない三人にそう語りかける。 「あれ?」と、長男が振り返った。 「なんか今、父さんの声が聞こえたような」 「帰ってきてくれたのかもしれないわね」と妻が微笑み、三人は見えない俺の方に笑顔を見せてくれた。  俺はその笑顔を目に焼き付けて、自宅を後にした。 「袴田さん、さっきの本は三途の川を渡ったところで、袖の下に使ったらいいよ」  ガイドがそんな入れ知恵を俺に授けてくれる。 「さて、そろそろ渡し舟も空いてきた頃だよ。川を渡ってあの世へご案内しましょうか」  この世の忘れものを回収し、なし終えたことに満足した俺たちは、気心が知れた者同士、おしゃべりしながら三途の川の船着場へ、ぶらぶらと歩いて行った。 <了>
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