この世の忘れもの

2.誓約書

「今、あんたがたが見ている私には、実態がないんだよ。だから、それぞれの妄想が形になって見えてるんだ。ある者にはいい女に見えても、ある者には皺だらけの老婆に見えるし、棍棒を持った赤鬼にも見える。あるいは鎌を持った死神に見えるかもしれないねぇ……」
　そう言うと、俺に向かってニヤリと笑った。

「まあ生きてる世界では、死神、奪衣婆(だつえば)、天使といろいろな名前で呼ばれているようだけどね。あんた方が三途の川を渡ってあの世に落ち着くまではしっかりお世話しますよ」

　女が口を開けると牙のような八重歯が覗き、ぞっとした。