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「両親が離婚して母親と家を出た時に何も持ち出せず、親父さんの写真が1枚もないんだとさ。形見にしたいそうだ」
「でも、そんな大切に思うなら、ひとりで死なせなきゃこんな手間かからないっすよね」
若い方が軽口を叩いた。
「酒と賭け事で奥さんはかなり苦労したらしい。でも、改心してくれたらいつでもやり直すつもりで、ずっと待っていたらしいよ。遺骨も奥さんが引き取ったそうだ」
そう中年の男が言うと、若い男が「なんか、それぞれドラマがあるんですね」と急にしんみりした。
それを聞いていた石田老人は、何も持たずに外に出てきた。目が真っ赤になっていた。
「ガイドさん、今からキャンセルはできますかね? 写真は息子に持っていてほしいので、私はあきらめます」
「うーん、まあ、誓約書にはキャンセル禁止とは書かれてないから、いいんじゃない?」
ガイドはそう答えた。結構適当なものだ。
「でも、石田さん、後悔しないかい?」
ガイドが重ねて尋ねる。
「妻が、いえ、元妻が遺骨を引きってくれたとわかって、もうそれで十分です」
石田さんはきっぱりと答えた。
「そうかい。じゃあ、次行こうか」
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