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九・五 セミダブルのベッドでお願い
もう一本空けようと、階下へ向かいかけた貴広の腕を、良平がつかんだ。
「もうダメ」
ソファから転がりそうにして、骨張った細い指を伸ばしている。
「良……」
「酒はもういいだろ」
恥ずかしそうにそう言って、良平は甘えるように貴広を見上げた。
下は店だが、閉店後無人になるので、基本的に一軒家。サヤカのいない今夜は、物音を気にしなくていい。
「……分かった。分かったから一度離せ。シャワー使わせろ」
良平は一本一本その指を離した。名残惜しむような熱を帯びる指。
水回りはまとまって、小さなキッチンの横にバスルームと、それからトイレとがある。狭いながらも動線がスムーズで暮らしやすい部屋だった。貴広はバスルームの前でバサリバサリと服を脱ぐ。
「もう……昨日だって、お前のこと大事にして。風呂上がりに髪まで乾かしてやったじゃん。あんなにサービスしたのに」
「俺がどれだけ貴広さんのこと好きだと思ってんの? あんなんじゃ足りないよ」
貴広の手が止まった。
「お……前ぇ。どうしたんだよ、そんなデレ」
言われた貴広の方が、照れて真っ赤になってしまう。振り返ると、良平もモジモジと赤くなっていた。
「いいから。早く風呂行って」
良平がシッシッと貴広をバスルームへ追いやる仕草をした。
貴広も急いでバスルームの扉を開けた。
「あ……んん、貴広さぁ……ん」
引っ越してきたときひとりだった貴広の寝床は、セミダブルでふたりにはやや狭い。だが、そんな狭さにさえ、ふたりは満足していた。肌を触れ合わせたまま眠りに落ちる、その幸せと安堵。
風呂上がり、バスタオル一枚を身に付けて、良平はセミダブルのベッドに貴広を引き込んだ。バランスを崩した貴広は、思い切り良平を押し倒す形になり、目の前に突きつけられた良平の胸のつぼみに口づけた。
良平の反応は鋭く、咽から声を漏らしながら、貴広の歯が当たるように胸を押しつける。
「いや、そんな、いきなりトップギアで来られても」
「何だよ。もったいつけんなよ。夕べは俺にガマンさせたじゃん。責任取れよ」
つぼみの上でもぐもぐ言う貴広を、良平はピシャリと遮った。
良平は上体を深くかがませ、貴広に覆いかぶさる。
「ねえ……お願いだよ貴広さん」
良平の熱い息が貴広の耳たぶをくすぐった。
「もう……若いな良は。歳の差を感じるよ」
満足させられないと、今に捨てられちゃうのかしら。
貴広はブルブルっとふるえたが、すぐ気を取り直して上気した肌を組み敷いた。
いつもクールな良平がこんなに熱くなるんなら、サヤカ効果も悪くない、か?
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