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「……そうなの。ママ、あの人にいじめられてたの」
どうせもう会う事はない。これくらいの嘘、幸樹を守る為なら平気だ。先生だってそう言っていた。悪いのはクラスに馴染もうとしない夕夏の方だって。
お腹の子がまた激しく足をばたつかせた。
「今のは痛かったわよ……あら? もう寝ちゃったの? 気まぐれねえ」
幸樹がじっとお腹を見ていた。
「赤ちゃん、寝てない。起きてるよ」
「嘘、何も感じないわよ?」
胎動は落ち着いていた。
「動いてるよ。なんか、怖い」
「え?」
私には丸いお腹が呼吸で上下している様にしか見えなかった。
「顔……」
「顔?」
「さっきのおばさんだ」
「幸樹?」
「おばさんが何か喋ってる!」
また顔面蒼白になって、焦点の定まらない目でお腹を見ている。
「しっかりして! どうしたの」
チョコが付いた口を見てはっとする。あれに何か入っていたとしたら。
「……ママって嘘つきなんだね」
「幸樹、水飲みなさい」
ペットボトルの蓋を開け口に押し付けた。
「……ママ、赤ちゃん見てるよ」
胎動が激しくなり、あまりの痛さに涙が出た。
「嘘つきは絶対にゆるさないって」
そう呟いた幸樹の顔が一瞬だけ夕夏に見えた。
了
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