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 三男という立場もあって、恭造は斗南藩には行かないと兄たちに告げた。三人揃って行動するのが当たり前と思っていた長兄の壮介は怒り、次兄の敬冶は絆が途切れると言って悲しんだ。血を分けた兄たちの、それぞれ別の感情に接した恭造だったが、心は動かず品川から船が出ていくのを見送り兄たちとの縁を切った。父は別の場所から合流するということだったが、無事に再会できたのかどうかわからない。そもそも兄たちがまだ壮健でいるという報せもないのだった。  藩から離れて暮らすうちに、かつて忠義を尽くした相手の胡散臭さばかりが強まっていく。放置した生ものが少しずつ腐敗していくような感じであった。少し前まで鉄工所に勤めていた時に楔を打たれた腰や膝が痛むものの、厳寒の中で開拓に従事する苦労よりはましだろう。 (武士にあるまじき胸中だな……)  自嘲するような笑みが漏れた時、向かいから来る男が怪訝そうな表情を見せて避けていった。藩主に忠義を尽くす生き方とは無縁になったが、それを非難する者もいない日々であった。
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