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藩を離れてから言葉遣いを咎める者もいなくなり、下卑た物言いにも慣れてしまった。牢で一緒だったのも軽輩の次男、三男で、彼らの醸し出す空気にかぶれたのかもしれない。一度馴染んでしまうと案外心地よく、それまでの暮らしがひどく窮屈に思い出されるのだった。
「稼ぎもないのに、ずいぶん偉そうだこと」
奈緒は不満を隠さずに言って台所へ立った。イギリス人が経営していたという鉄工所が閉鎖され、稼ぎの口を失ったのは一か月前のことで、以来仕事を探し続けているが状況は芳しくない。二人の所帯をもたせているのは奈緒の小料理屋での稼ぎである。
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