7/10
前へ
/30ページ
次へ
 親兄弟と袂を分かった時の恭造には何もなかった。糊口をしのぐ方法を探すうちに流れ着いた横浜には、多くの外国人が仕事を作り出していて、稼ぎの口もすぐに見つかった。小料理屋の女中をしていた奈緒と知り合ったのも、イギリス人の鉄工所で働いて間もない頃で、ふらりと店に入ったのが縁であった。  元々横浜村に住んでいた奈緒は五歳上で、その年増ぶりに艶冶なものを感じたが、一年も過ぎると昼夜の動きがひどく鈍重に見えてくる。図らずも奈緒の情夫になってしまった今は離れられないが、時々一人の暮らしを想像して気分良くなることもあった。 「えり好みはしてないのよね」  茶を淹れて戻ってきた奈緒は、慎重な声音で訊いてきた。 「何だってやるつもりさ。それでもなかなか見つからねえ。仕方ないだろう」 「そうね。あんたのことは見捨てないつもりだけど、わたしも共倒れはしたくないわ」 「そうかい、お前にとって俺はお荷物だよな」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加