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数千万年前、大きな竜が大地をのっしのっしと歩いていた時代。
今、地上を支配する人間たちは、影も形もなかった。小さなネズミが竜たちの影に隠れてコソコソ暮らしていたが、今から思うとあれが人の先祖だった。
私はこの島からずーっと西にある温暖な大陸で、ごく普通の樹木として命を終えた。
私の死骸は虫やもっと小さな生き物に少しずつ食べられ、ゆっくりと腐っていった。
腐りつつあった私の身体は、大洪水によって海に流されてしまった。
かつて私であったモノは、海の小さな小さな生き物の餌となった。
私を食べた生き物もやがて死を迎え、海の底に沈んでいった。
小さな生き物の死骸はどんどん深く沈み、地の底から熱にさらされる。
長い長い時を経て、かつて花を咲かせていた私は、異臭を放つドロドロの黒い液になり下がってしまった。
地の底でずっとドロドロの醜い姿になり眠っていた私は、突如、地上に引き戻された。
世界はすっかり変わり、人という生き物が支配していた。
私は人の手によって、ドロドロした黒い液から、樅の木に姿を似せた物に変えさせられた。彼らは私をクリスマスツリーと呼んだ。
そうそう、黒い液体のことは『石油』と言うらしい。
私は、西隣の大陸で生まれた桜の木だった。
私が地の底で眠っている間、子どもたちは東へ吹く風によって運ばれ、この東の島にたどり着いた。
何千万年もの時を経て目覚めた私が見たのは、君が、桜の葉が木枯らしに吹かれる姿だった。
君は、かつての私とは大分、姿が変わってしまった。
長い年月と人間の力が、私の子どもたちの姿を変えてしまった。花の色も形も咲く時期も違う。
それでも君が私の子どもであることには変わらない。
はじめ、私は人を恨んだよ。
こんなまがい物に変わるぐらいなら、地の底に眠ったままの方がマシだった。
だけどね。
君がそこにいてくれたんだ。
君を見つけてどれほど私が嬉しかったか、わかる?
まさか何千万年も経って、こんな遠い東の果てで、私の子どもに会えるとは!
私はクリスマスが大好きだ。
一年のほとんどを暗闇で過ごすけど、君に、私の子どもに会える季節を思えば耐えられる。
今は、私を作ってくれた人間たちに感謝しているよ。
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