あるじに捨てられた最後のひとり

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 (あるじ)との絆が私に水を与えてくれる。陽の光を受けた私は、主から与えられた水を大きく変える。光に力を与えられ変化した水を、私は主に返す。感謝を込めて。  夏に移り変わり日差しが強くなると、ますます私は主に恩返しをしたくなる。  もっと光を! 私に喜びと力を与えてくれる光を! 光を浴びようと私は身を伸ばす。  が、季節はめぐり冷たい風が吹くようになると、私から水を変える力が失われていった。そして非情なことに、(あるじ)は私との絆を断ち切る。水を変えられない私は、もういらない、とばかりに!  主と慕っていたモノの正体が、ここにきてわかった。  私が主に恩返しとばかりに捧げていた変化した水。  主は、ただ光の力を受けた水を欲しかっただけなのだ!  私の仲間がハラハラと地面に落ちていく。  どれほどの嵐が来てもびくともしなかった絆が、冷たい風で断ち切られていく。  私の身体が、何も生み出さない醜い赤色に染まってしまう。  その赤色がさらに茶色に変色し、身体はすっかり干からび丸まっても、まだ私は必死にしがみついていた。  仲間を全て失った私の隣には、憎たらしいほど青々とした大きな(もみ)の木が立っている。  私だって若い時は、あんな樅の木よりずっと青く輝いていた。  いや、私は知っている。樅の木は、永遠に青いままなのだ。  その葉は枯れ落ちることはないのだ。  春には私の(あるじ)の周りに集っていた人々が、今や、主が桜だったことも忘れ、樅の木に夢中なのだ。  しかも樅の木の奴は、金色銀色に飾り付けられ七色の光に覆われている。  まて! まだ風よ吹くな! まだ私にできることはあるのに……あ、ああああ! 嫌だ、引き裂かないでくれ! 私は、主から離れたことはないのだ、イヤダ嫌だ厭だいやだああああ!!!!  桜ではなく(もみ)の木の葉になりたかった……  桜の木に残された最後の一枚が、今、音もなく静かにハラハラと落ちていった。  しかし、人々はそれに目を止めることもなく、飾られたばかりの大きなクリスマスツリーに夢中で、今年のプレゼントは何を買ってもらおうかと、盛り上がっていた。
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