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エフィームのいう、百姓頭の家では、すでに昼食が用意されていた。エフィームや他の二人からすると、実に質素なものではあったが、それでも心づくしのパンや果実、川魚の料理にお茶もあった。もともとが貧しい小市民の出であるイワンには、百姓頭の偽りのない善意・地主の子息に対する素朴な敬愛は痛いほどに伝わったが、やや後ろめたさが残るものでもあった。
四人はサンクトペテルブルグの帝国芸術アカデミーの学生である。食事を終えると、さっそく議論が始まる。それはアカデミーの体質や芸術の考え方に対する批判、いや憤りに終始するものであった。いつものことである。
彼らはアカデミーへの反抗の烈烈たる意志をもって、この夏を迎えたのであった。ロシアの風土や文化に合った新しい芸術を模索していた彼らの最初の試みであった。広大で豊かな自然と、農村の生活をしっかりと見ること、それを自分たちの芸術に取り入れていくこと。それが彼らの狙いであった。
若々しい熱を放った彼らは、午後も陽が傾くまで、スケッチに夢中になった。
貧しい出身であるにもかかわらず、イワンはその才能や聡明さ、そして行動力という天賦の才能を持って、他の三人からリーダーと見なされていた。エフィームが志を同じくする、仲の良い三人を誘ったのは、最初は軽い気持ちからだった。単に避暑を楽しむくらいに考えていたのだ。しかし、その提案にイワンは食らいつき、そこで農村のありのままの絵を描いて、アカデミーへの反撃の烽火とすべきことを説いたのだった。三人が感激したことは言うまでもない。
そうであるからこそ、イワンはいやがうえにも高揚していた。三人の前では押し隠していたが、本当は彼がいちばん武者震いしていた。
けれど、その夜イワンに思いがけない異変が訪れることになる。
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