美人規格

🌈 「外国かぶれと思われようがかまわない。意識の高さの話。なるべくわかりやすく言おう。私が美人と思うのはトップモデル。トップだけが美人だ」

💖「…」

🎤「後ろ斜め四十五度のアイデア」

🧎‍♀️「モデルだあ？ひょろひょろっとしたギャルのねーちゃんたち」

🌈「そこら辺にいるモデルらはそんなんでしょうね。海外でも底辺から中盤はそう映るでしょう。私が美人中の美人と思えるのはトップ階段を登り始めたのが美人、自分はモデルとして境界線を超えて戻れない所まで来たという覚悟が素晴らしい。快楽さん、イチローはご存知ですね？」

🧎‍♀️「あったりめーよ、日本の至宝」

🌈「それはあなたが男性でスポーツが好きだから。私はイチローと働いた事があります。人となりを探るっていうつもりはなかったですけどね、やはりかなり個性的で多業種の我々には理解不可能な性質がありました。トップモデルは快楽さんが崇拝するイチローに似ている」

💖「男性モデルもいるわ」

🌈「ですね。男女平等不平等のところで言えば男子競技女子競技の有無と同じで、モデルは女性特権を持っている。女性モデルが数倍の額で契約できる世界、拒食等で騒がれる時があるが、男性で血管はち切れそうなくらい脂肪減らしまでして数億稼ぐためにスポーツやっている人間もいるっていうんだから騒いじゃいけない。彼女らは美人の称号を得るために身を粉にしている。いわば、仕事だ。美人は職業。
ハニカム姿がかわいい、おっちょこちょいな性格が可愛い、髪をかきあげるとこが綺麗だとか形容するのはあるだろうが、美人の粋には到達しない。
なぜかっていうと美人は美をもちながら隠す事が求められるからだ。SNS、メディアで自撮り等で顔、肌を露出しているのは綺麗、可愛い止まり。女優もしかり」

🧎‍♀️「ええかげん。ええかげんだ」

🌈「そうですよ。私は本間ええかげんです」

🧎‍♀️「名前を言ってるんじゃない。このかた、多くの女優とも仕事してきた。ものすごい美人さんばかりだ。気品があり、清楚でそれは素晴らしい女性たちだった」

🌈「でしょうね。芸能で通じる快楽さんには切っても切れない縁だ。ですがね、私の理論では話芸の快楽さんの方が美人に近い。今では若手の女性落語家さんもいてるそうですが、どうにも笑わせる事に傾倒しているようだ。しっとり人情噺でもすることがあれば美人路線になり得る」

🧎‍♀️「聞き手は笑いを欲しがっているから、人情っ話だけとはいかねー。それに見た目に華やかさがあれば女優の道を選んでいるだろうよ」

🌈「私の話に戻ります。ニューヨーク、パリ、ミラノそして東京、香港、上海、そういった大都市のファッション界隈、例えばニューヨークならばソーホーはおしゃれっ子や観光客でごったがえしている。ソーホーがファッション街なのはグランドレベルのショップだけじゃなくて、二階三階にあるフォトスタジオ、モデル事務所、芸能プロが存在していること。もちろん、一般人はいけない。モデルなんかはさっさと歩いて事務所に入っていく。ごくたまに見かける九頭身の女性陣にモデルと気づく。街を歩けば撮影に出くわすことはある。けど一流のモデルの撮影はない。露出が少ない。」

💖「扱いが違うのはそうでしょう」

🌈「一流の女性モデルは実に素っ気ない。それを目指さないといけない。アピールしなければいけないのは新作の服。決して彼女らの長い足と小さな顔ではない。だが、死んだ魚の目をしてはいけない。笑ってはいけないが、悲観的でも怒っていてもいけない。非日常そうで、背伸びをすれば手の届く存在ということをさりげなく錯覚させる。ブランド品の価値を定める。ファストファッションとは違う。小さな顔で産まれ、画角が小さい世界で求められる表現をする。首から下はお洋服様が主役。快楽師匠が短歌で演目を披露するようなもの。存在をギュッと絞り込む日々の訓練、トップモデルは一日してならず、そしてプロアスリートのように年齢に制限がある。だからこそ華があり謳歌できる。イブサンローランのトップモデルさんが馴染みの日本食屋来てたけどね、いつも一人、味噌汁と寿司ロールとサラダと煮物。一線を退いていたモデルさんだったけど、風貌はあった。紛れもないオーラ。普段着は柔らかくすっぴんで馴染みやすい。店主がアメリカ仕様で作られたキッチン棚に入った物に手が届かないから彼女に頼んだら笑いながら物をとってくれていた。近代美術館でイブサンローランの個展があったときにメインビジュアルに映し出されたのは十年ほど前の最も喝采をうけた作品のプロモーションビデオだった。モデルは彼女だ。ブランドと共に名をあげた彼女、とてつもなく異人、映像の彼女は美人だった。鋭い目、奇抜なデザインに負けすぎないような表情、前に出過ぎない、並列に並ばず一歩下がっている。けど、油断すれば奇抜性に引きずられてしまいかねない。緊迫感に耐えるための普段の意識と練習があってトップとして君臨できる。モデルはおしゃれな街で見ることはできる。ファッションショー、テレビでみることもできる。けど、アピールが過ぎる。しゃべりまでする次第だ。トップモデルに似た美人はもうひとつある。それはバレリーナ。彼女らも動きだけで表現する。今度は顔は無表情で首から下が表現のキャンバス。どんなに激しい動きでも息を切らさない。そして彼女らにも制限がある。期間制限があるからこそ、モデルもバレリーナも常人以上のレベルを保つ事ができる。そして、人はこういうんだ。”あの人は美人だった”って、現役で美人をやっている時は人付き合いも限られ私生活はベールに包まれているようであるが、至ってシンプル、だがそれだからこそ難しい。いずれ人並みの生活が可能になったときに言われるようになる。現役の美人は恐れ多い」

💖「とてつもなく極端な例ですね。けど、納得はしました。ミステリアスな部分は男女ともに人の興味を惹きつける。男性なら俳優とかより肉体が絡むアスリートの私生活とか気になるんでしょうね。同性に共感を得るという事かな」

🌈「言うのをわすれていました、美人の敵は筋肉だ。イチロー同様、不必要な筋肉は見栄えを悪くし、可動域を減らす。表現者としては致命的。一週間分の食材を買うと袋が重くなる。それすら持つことを拒む。左右の腕のバランスが崩れるんだ。どうですか？友達になりたいですか？彼女にしたいですか？美人になりたいですか？極端な例ですが、美人は有限で職業だ。私生活を極力見せない。笑わない、ご飯食べていると事はみせない。想像させない。もちろんエロティックな面もありませんよ」

🧎‍♀️「ものすごくかなしくなってきた」

🎤「なぜ？」

🧎‍♀️「恥ずかしながら演芸で生きてきた分際。あと何年できるかなって考えるこの頃。話芸にも上手い下手があり、饒舌、流暢に感情がのり、お客さんと一体になる事があれば美を意識する。ゾーンってやつかな。そんなんをまたやりてーなって思うが、違うんかな」

🌈「同じ物を求めると美意識は崩れる。大抵の職は長くやることで味が産まれる。それは個性が滲み出ること。快楽さんの話芸を長らく聞いている人には心地好いでしょうし、似た感性の人らをあらたに魅了する事ができて、そこから発見があれば可能性はある。十代で売れっ子になった歌手がその後に苦労しちゃうのはそういうことだ。私自身、言われましたからね。二十代で出過ぎない方がいい。記録に残る仕事の場合、若気の至りってのがついてまわるから。三十四十で初めて一人前になるくらいで構えておいてそれまで専門性を磨けって言われました。容易に政治的な発言をしてしまって右か左と識別されるから」

💖「シビアな世界ですね。ええかげんさんもプロとしてやってきた美がありそう」

🌈「まだまだ。言われたことが頭に残っていて、あれこれ自分に会う世界を探りながらやっていたらいい歳になっていた。周りは出世、独立。はっはっは。けどね、さっきの理論ですが、必ずしも、若い時期が限定の美人じゃなくてもいいと思う。和服美人を目指す四十から五十の期間があってもいい。バレエは踊れないが、舞踊やフラメンコなんかも年齢を重ねてから出る魅力で惹きつけるものがある。けど、やはり、生活基準やそのために全てを棒に振ってまでやると言うのは困難でしょうから準美人といった程度でしょう。未亡人になって一人踊りに狂うってのはもしかしたら美人認定されるかも。妖艶という意味ではこちらの方が近いか。そしてそれに見せられた年増の男性と恋に結ばれる。アプリなんかのポイ捨て可能な恋愛とは訳が違う」

🎤「大恋愛ですね。そういうのって最近、聞かなくなりましたもんね。今の恋愛観は流されすぎですね。我慢しないのがいいって。我慢って言葉がよくない。積み上げる」

🌈「まあね、でもその積み上げが面倒なんでしょう。無理に積み上げなくてもいい。地面に転がっているのが心地いいならオッケー。でも厄介なのは、片方に押し付けるばかりの場合ね。いずれにしろ、美人は美人であるときは一人だ。恋愛感情があったとしても、相手はかなりの理解者で心の恋愛スペースは極狭。三股ちゃん、これから女性として成長するにいたって、恋愛を重視したいのか、美人になりたいのか　どっちかな？」

…

🎤「ちょっと、わかんないよね。美人になって男性に愛されたいもんね」

…

💖「すんごい雰囲気になっちゃった」

🌈「ちなみにね。おじさんは未だ独り身。美を意識しているわけじゃなかったんだけど、さっきも言ったようによーく考えて挑戦して選ぶようにってなったらこんなんなっちゃった。笑い。お仕事大好きなの」

🧎‍♀️「…」

🎤「快楽さん、驚いてますね。ええかげんさんはどっちもいけちゃうんですよ。ね？その道をよーくご存知」

🌈「まあね。けどね、三股ちゃんもいるから勘違いしないでほしんだけど、別に恋愛感情豊富じゃない。むしろ淡白で、仕事として人と接するのが目的。女性とあっても女を意識しないでバシバシ仕事をするし、男性とは相手がこちらを男として張り合うつもりならば適当にやり合ってみせる。競争に興味はないんだけど。まあ一応は両生類という事でより深堀させていただています」

…

🧎‍♀️「…」

💖「へーなーるほどね」

決めました。美人は目指しません。そこまで身長高くないし、笑いたいときに笑いたいし、泣きたいときに泣いてしまうと思う。友達とかお姉ちゃんとかと一緒に遊びたい。

🌈「それでいい。恋愛して綺麗になってさ。八方美人は彼氏さんとか旦那さんを不安がらせるからちゃーんと二人で話し合ってルールを決めてね。美人薄明、少し意味合いが違うけど、私の定義に似ている。お姉ちゃんも生きていれば美人チャンス到来、完全無敵な美人になって人生終らせてやるんだってなったら目指してみたらいいんじゃない」

🧎‍♀️「そんじゃあな、美人に産まれるってことはねえんかな」

🌈「それはまた違う」

🎤「あっとちょっとお待ちをCMです」