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【木下一生の証言】
お恥ずかしい話、あの夜のことは見えていました。
怖くて寝返りを打ったふりをしたんです。
嫁が……麻里が、散歩中にフラフラと道を外れて行ったので、あの時は慌てて追いかけたんです。
理由ですか? 聞いていません。
家に帰ると麻里はソファで寝ていました。俺が声をかけると泣きながら起き上がって「怖い、怖い」と言うんです。
もう――……し、も――……うす……――
そんな声が一枚のガラスを隔てて聞こえました。窓も、カーテンも閉めているのに生臭い匂いが部屋に広がりました。
掠れた声。
もうし、と言っている訳では無いと思ったんです。
もうすこし。
それを知って、悲鳴をあげそうになる麻里の口を、一生が抑えた。
ガラスの向こうにいる鬼は、窓からでは意味がないと知ったのか、今度は壁を叩いてくる。
――……ああああああああああああぎゃがやぎゃあああ
そんな怒号にも、笑い声にも思える声が上がると、先程までのことがウソのように周囲は静まり返った。
時間にして三十分でしょうか。俺にはずっと、ずっと長く感じました。
俺は怖かったんですが、警察に電話して、そして証拠になるようにカメラを回しました。
ドンドンと音がしましたし、何かがぶつかる音もしました。
本当に怖かった。
昔、怖い話に興味があった時、山の幽霊、妖怪の話を知りました。
猿に似た何かが小動物や人間を食べると言うアレです。対処法なんか知りません。
でも、俺は奥の部屋に嫁を入れて包丁を取り出しました。
迎え打てるつもりなんてなかったんです。
警察はすぐ来るって言っていましたし……。でも、何かしないと本当に気が狂いそうでした。
窓が開いて、アレがきた時、電気が消えたんです。
包丁を構えつつ、近くにあった嫁のバッグを相手に投げつけました。
すると、また絶叫が聞こえて、それきり……。
警察は強盗と言っていました。
でも、俺にはそう思えません。だって、窓には……、窓には猫の死骸があったし、大量の毛がリビングに落ちてたんです。
本当に怖かった。
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