贈り物

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贈り物

「まただ」  一つの机を囲んだ三人の女子学生は、ウンザリした様子で言う。  中学一年生の春。  クラスともようやっと馴染めた頃。  やや問題のある同級生が居ることに気が付いた時は、もう遅かった。 「どうする? また戻しとく?」  一人の女子学生が、机の上に置かれたプレゼントを見ながら厭そうに言った。 「また直接渡されても嫌じゃない?」  もう一人が言う。  クラスの中に一人、おそらくお金持ちの学生がいるらしい。  その学生はなんでもプレゼントをしたがり「消しゴムを貸してくれたから」「教科書を見せてくれたから」となにかしら理由をつけてあげたがる。  最近では、さらにエスカレートしていって「話をしてくれたから」と明らかに高そうな文房具を贈った。  物で友達を作ろうとしている人間。  皮田サヨ子は、クラスでそんな位置付けとなった。  学校が始まって早々、サヨ子はクラスで浮いた存在となった。勿論そんな調子では、友達など出来るどころか近寄る人は少ないだろう。  最初こそ物目当てで近寄った同級生はいたのだが、その独特の雰囲気に圧されて「気持ちが悪い」と早々離れていった。  人に物をあげるのだから、金持ちなのだろう。と誰もが思う。  しかし、彼女の私物はボロボロでとても使い古された物だった。あまりの悲惨さにイジメを疑われても仕方がないようなボロを持ってくる。  机を囲んでいる三人というのは、比較的大人しく押しに弱い面々である。サヨ子はすぐにそれを見抜き、机の上、下駄箱の中、もしくは直接と贈り物をしてくる。  三人お揃いになるデザインのブレスレットをサヨ子が持ってきた時は、流石に眩暈がした。  渋々、友達の付き合いとして受け取り、今もなおつけているが、それはもう一種の呪いに思えて仕方がない。しかも、このブレスレットというのが厄介でおそらくサヨ子の手作りなのだ。 「机の上に置いておこうよ。三人一緒なら声かけられないって」  ようやく結論が出た三人は、可愛くラッピングされたそれをサヨ子の机の上に置き直し、ようやく下校した。  (いの)(うえ) アカリ。  (あさ)(かわ) (けい)()。  ()() (さき)。  この三人の中で一番気弱なのは宇野であった。  友達からの善意を蔑ろにしていると罪悪感を持ちながらも、これ以上頂くのは申し訳ないとも思っている。  正直、嫌気が差しているのだが「嫌だ!」と正面切って言える性格でもない。  気疲れは蓄積し、最近では体調を崩すことが増えた。  他二人もそうなのだろう。  見ている限りあまり調子が良いとは思えない。それでも、休まないのは学校が始まったばかりなのだ。 「ただいま」  グッタリしながら玄関の扉を開けると、生臭さに顔を顰める。  夕飯は魚だろうかと思う反面、魚はこんなに臭かっただろうかと訝しむ。  それに母親が使っている車が見当たらない。  父親も帰宅は遅い。玄関には鍵がしまっていたので、家は無人のはずだ。  だというのに、足音が聞こえる。  それは台所から聞こえる。    パタパタパタ……。    その足音が向かっていると気がついた時、宇野は悲鳴を上げながら扉を閉めた。  その日、母親が帰宅するまで近くのコンビニで時間を潰すしかなかった。  夜、自室で勉強をしている時に視線を感じ何度もペンを置く。集中ができない。寝ようと目を瞑るが、どうも居心地が悪い。  それは日に日に悪化していって――……。
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