贈り物

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 2  ファミレスの隅。  私達と向かい合うように相談者のU氏。その奥様、問題であるお嬢さんがいる。  三人とも見るからに疲れ果てており、氏が言っていたポルターガイスト現象とは言わなくても疲れさせる問題はあるのだろう。 「貴女に相談をすれば、解決してくれると旦那が言っていたんですが……」  ゲッソリとした顔でU氏の奥様が言い出したため、私は慌てて首を横に振った。 「私ではなく、どちらかというと……」  私は慌ててそう答え、自分の隣に座る男性を見る。  グレイヘア、黒の色素が抑えられた瞳。それだけでは初老と勘違いされるかもしれないが、顔も、体も若々しい。  (へび)(こう)。  そういった渾名をつけられた男だ。  彼は時折、居酒屋に行っては、人の手助けをしている。その手助けというのが「失せ物探し」というものなのだ。  話を聞き、相手を見るだけで失せ物をあてる。  それは霊感商法に近いのかもしれない。それでも彼は、金銭を受け取らず、ただ一品二品奢られることに留めている。らしい。 「らしい」と言うのは、私が居酒屋の店主から聞いたからであって、実際見てはいない。 「絶対に解決出来るとは言えないが、話を聞くだけなら……」  という返事の元、来てくれた。  あの時と同じ言葉を繰り返す蛇公に「ありがたいです」とU氏の奥様は答えた。  U氏は娘を紹介してからゆっくりと話をし出した。 「高校入学してから一ヶ月経たず、娘はなんだか悩んでいるように見えました。どうしたのか聞くと 「同級生の一人に変な子がいる。頼んでもいないのに物を贈りつけてそれで友達になろうとしてる」  と、申し訳なさそうに答えるんです。 「断ればいいじゃないか」  と、言っても実行出来ないのは、娘の性格でしょう。優しい子なんです。それに、狭いクラスでの世間体というのもあります。  そうこうしているうちに、娘はすっかり滅入ってしまい、ろくに食事も取れなくなってしまいました、寝ることも難しいというのです。 「そんなに友達が迷惑ならば、親が出てもいいんだよ」と言うと、今度は「そっちじゃない」と言うんです。  今度は、怪奇現象が起きたと言うのです。  留守番をしている間、自分以外はいないというのに誰かいる。足音が聞こえる。見張られている。そういったことを言うんです。  私は最初信じられず、頭の病気を……バカにしたわけじゃありません。疲れ過ぎると幻覚や幻聴が見たり聞こえたりするっていうじゃありませんか。だから心療内科に行くことを勧めていたんです。  そうして、病院の予約を取っている間おかしなことは本当に起きました。  バチン、バチンと誰かが壁を叩くのです。  家は三年前に建てたばかりです。両隣の家は老夫婦が住んでおり、あんな大きな音を出せるはずもありません。  それだけではなく、確かに足音が聞こえてきました。鍵の閉まっているはずの玄関から誰かが入りコチラに向かってきたんです。  妻は驚き、娘は叫び、私は見えない誰かに怒鳴りました。  玄関に向かうと、一面に泥が塗りたくられていたんです。  娘曰く、それは数日前から頻繁に起こることでした。怒られるのが怖くて、心配させるのが申し訳なくて掃除をしていたというのです。  家にいるのが怖いので学校に行っているのですが、それでも見ていて不憫でなりません」  U氏が説明している間、お嬢さんは俯き、時折肩を震わせて泣いている。  それを奥様が優しく背中を撫でて落ち着かせようとする様は見ていて痛々しい。 「何か心当たりはありませんか? 泥が出ているならば、そういったことに関連するような。……例えば、水とか川とか……」  私が問うと、お嬢さんは首を横に振った。 「では、物をあげたがる友達とは解決したんですか?」  私が問うと、お嬢さんは首を横に振った。 「例えば、何を貰うんですか?」 「シャーペンやノート……とか、アクセサリーとか……」 「では、腕につけているソレも貰い物か?」  今まで黙って聞いていた蛇公がお嬢さんに問う。  腕につけているソレと言うのを聞いて、私は首を傾げる。  お嬢さんは、自身の膝の上に両手を置いている。手の甲まで袖を伸ばしているため、何をつけているのか、ここからでは見られないはずだ。  それでも時折、右手首を摩っているような動作をしていたので、蛇公には見えたのかもしれない。  お嬢さんは驚いて顔をあげながら、慌てて右手首につけたアクセサリーを外した。ビーズで出来た可愛らしいブレスレットだ。 「その友達から作って貰った物です」 「嗚呼、そうか。手作りか」  と、蛇公が声を低めて言う。 「これが、どうしたんですか? 教えてください」  U氏は懇願するが、蛇公は難しい顔をしたままブレスレットを見ている。私も蛇公につられてそれをまじまじと見た。  透明と水色のビーズを使用したブレスレット。手作りならば相当、時間はかかっただろう。それほどまでに繊細な作りをしている。 「他にも二人、貰っていました。「三人、お揃いだよ」ってくれたんです……」  お嬢さんは震える声で言う。 「その二人は、今、ここに呼べる状態か?」  蛇公の不思議な質問をする。 「それは、どういうことですか?」 「わざわざ「お揃いだ」と言われて貰ったのならば、その二人にも話を聞きたい。ここに来るように言ってくれ」  蛇公の言葉を聞いたお嬢さんは、すぐさまスマートフォンで二人に連絡する。
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