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4
近くのデパートにてお菓子を抱いているクマのぬいぐるみを購入した。デザインも可愛ければ、千五百円と予算としても丁度良い。
「まず、今夜は三人、一緒に過ごす。泊まっている間、一人はクマの背中を裂き、一人はこのクマの中に三人分のブレスレットを入れ、一人はその背中を縫い直すんだ。そして、明日、三人一緒で相手にこの贈り物を渡すといい」
ぬいぐるみの購入直後、蛇公が何事もないようにそう言った。
突然の儀式めいた行動への指示に、蛇公以外の人間は再び緊張する。
たしかにこんなお返しは普通では無い。それこそ貰った物を返している。
この三家族、ましてやこの純粋な子たちが考え出すのは難しいだろう。
「他に貰った物があったとしても、返す必要はない、気持ちが悪いなら捨ててしまってもいい。それは個人の判断に任せる。だが、これは必ず渡さないといけない」
三家族はクマのぬいぐるみとブレスレットを入れた紙袋を見つめた。
「ですけど……」
「本当にそれで解決するんですか?」
と、まだ不安げに尋ねるのも仕方がないだろう。
蛇公は少し悩んだ後で頷いた。
「明日の十九時丁度、俺は式野と先のファミレスにいる。渡してからもう一度、会おう」
勝手に私が居ると宣言してくれたが、異論は無いので頷いてみせた。三家族は納得した様子で神妙な顔をしたまま頷いた。
誰も経験した怪奇現象に悩まされていたのだ、解決はしたいのだろう。
翌日、十九時。私達は再度、指定の場所に集まった。
「良かった。無事に渡せたのか」
誰も、何も言っていないのに蛇公は三家族を見るなり、安堵しながらそう呟いた。
「どうして分かるんですか?」
「そう思っただけだ。一ヶ月は様子を見て、何かあった時は式野か、あのお喋りな店主に言うといい」
蛇公が突然そう言い出したので、私は面食らったが、それでも慌てて頷いた。
「お守りとかは、貰えないんですか?」
家族の問いかけに、蛇公は悩んでいる様子だった。
「うぅん……。お守りが欲しいなら、それこそ寺や神社に行った方が良いな。俺は知恵を貸しに来ただけだから」
申し訳なさそうに言う蛇公に三家族は納得するしかないようだった。
「相談を受けて知恵を貸す」
たしかに蛇公はそう言っていた。後は本人たちでどうにかするしかないだろう。
「お金は……」
と、言い出したU氏に蛇公は首を横に振った。
「要らないさ。気持ちだけ受け取っておく。信じるのが難しいのに金がかかるなんて嫌だろう?」
その目はI氏に向けられており、彼はやはり嫌悪感丸出しで目を逸らした。
I氏を抜いた家族は、蛇公に感謝を述べた後それぞれ帰路についた。
三家族が去ってすぐ、私は蛇公に尋ねた。
「どうしてすぐにブレスレットが問題だと気がついたんですか?」
「その話だが、もう止めた方がいい」
「どうしてですか?」
「怖いから」
蛇公が突然戯けてみせたので、私は驚いて彼を見る。
声音こそ明るくしているが、彼の横顔はどこか緊張しているように思われた。
「……ということだ。きっと解決するだろう。それでも難しかったら店主に言うといい。俺は毎日あの店にいるわけではないが、顔を出すよう心がけるから」
そう言って、蛇公はそれ以上の詳しい説明を拒否した。
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