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調査をすると、佐藤シズコが来る数年前に、皮田朋樹は苗字を佐藤から皮田に変えている。
「前の住所も問題の家だ」
「苗字は変えたままなんすか」
「手続きが大変だからな」
別れた妻もそう言っていた。と言いかけた藤原は口を閉じる。
「木下麻里とその夫もF県M村の近くに住んでいる」
「そこまで繋がるもん、なんスか?」
二三の言葉に藤原は「分からない」とだけ告げて頭を抱える。
「ヘビコウって人がなんか知ってるかもしれないッスよ」
「探しているが、会えない。なにせ店主すら本名が分からない。来たら連絡するよう言ってはくれているんだが……」
二三は「ふうん」とだけ言ってそれ以上、追求することはしなかった。藤原はどこか思い詰めた様子で資料を比較しあっている。
「家を取り壊しとかは出来ないと思うッスよ」
「分かってる。報告書に纏めて被害を出さないようにしなくちゃいけない……。相手はインターネットまで駆使して住居人を探してる」
「まるで生贄ッスね」
二三はそう言って資料を広げた。
「ああ。だから、どうにかしてあの家に住人が入らないようにしなくちゃならない……」
「悪いが、それは出来ない」
時野谷の発言に、藤原は耳を疑った。
「あの家のせいで被害者が出てる! 今だって住居人を探してるんだ。見殺しにしろってのか? 調査するだけでも出来ないのか?」
藤原は慣れないスマホを片手に件の家が載っているページを見せる。しかし、時野谷は表情一つ変えず藤原を見た。
「警察と村との確執が出来れば、今後影響を受ける。問題の村を担当する事となった駐在警官には、最低限の注意事項の伝達を義務づけた。それでいいだろう」
「伝達だけじゃダメだ。引っ越して来た人間にどう注意すればいい?」
「住人との問題が起きた場合、例外なく二週間以内に転勤先を移動することも義務の中にある」
「時野谷! お前は家族がいないのか?」
話を終えたとばかりに立ち去ろうとする時野谷の腕を掴み、藤原は叫んだ。
「新しい生活に希望を持つ家族が知らぬ間に地獄に落とされてみろ。お前だって人の子だろ?」
すると、時野谷は溜め息をついた。
「分かっている。俺もお前のように「これは危険だ」と上に言ったさ。それでどうにか、ここまで条件をつけた。本当なら何もしないまま、見殺しにする予定だったんだ」
時野谷の疲れ切った顔を見て、藤原は悟った。
「そんなこと関係無いだろう? 人の命がかかってるんだぞ?」
「俺もそう思う。だが、思い通りにいかないことだってある」
時野谷は静かに藤原手を振り払い早足で部屋を出た。
そして、佐々木文義は自殺として処理された。
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