呪詛

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 3  皮田順子が渡した映像を確認する。 【映像記録1】 五月二十一日 十六時二十三分 映像内容二十分  佐藤シズコと皮田美樹、皮田順子がリビングにいる。  皮田順子が干してある洗濯物を取り込みに席を外す。 「お前は、なんで女の子なんだろうね」  佐藤シズコが、椅子に座っている川田美樹の隣に立つ。 「皮田の家を出てく人間のくせに、どうしてトモちゃんに面倒をかけるの?」  トモちゃんとは、おそらく皮田朋樹であると推測される。  佐藤シズコが川田美樹の手の甲を抓る。  逃げ出そうと立ち上がる川田美樹の腕を引っ張り尻餅をつかせ「それくらいで泣くんじゃないよ」と声を出す。  皮田順子が戻ってくる。 「美樹ちゃんが転んじゃったみたいなの。椅子が高いんじゃない?」  腕を離した佐藤シズコが言う。 【映像記録2】 五月二十一日 十六時三十分 映像内容七秒  佐藤シズコの部屋と思わしき和室より。 「ゆるさないから」 【映像記録3】 五月二十三日 十一時二十三分 映像内容十分  リビング、テーブルに突っ伏して泣く皮田美樹。  一分四十三秒、女児と思われる音声一 「あたしたち」  一分四十九秒、女児と思われる音声二 「ねえね」  二分八秒、女児と思われる音声三 「許せないよね」  いずれも皮田美樹以外の人物は写っていない。 【映像記録4】 五月二十五日 十時三分 映像内容一時間  和室に佐藤シズコが入ってくる。茶箪笥の引き出しを開けて小さな箱を取り出す。そのまま茶箪笥を横にずらす。  箱からマチ針を取り出して、茶箪笥の裏に刺し始める。  映像からでの詳細は、目視不可能である。  皮田美樹が帰ってくるまで、同じ動作が繰り返される。  五十八分三四秒。佐藤シズコは茶箪笥を元の位置に戻す。 【映像記録5】 六月一日 二時二十三分 映像内容十分  和室の中央に佐藤シズコが立っている。  三十秒、立ったまま前後に揺れ始める。  二分十四秒。「私じゃない」と口を動かす。次第に声は大きくなる。  三分二十一秒。耳を押さえて地団駄を踏む。  三分五十六秒。茶箪笥の引き出しから箱を取り出す。蓋を開け、マチ針を取り出し自分の腹に突き刺す。箱の中身は、マチ針のみが入っている。  一分十四秒から鳴り続けていた小さな足音が止まる。  佐藤シズコ以外の音声を検出。 「わたしたち」 「いじめた」 「おかあさん」 【音声解析】 三種類の女児の声と判明。  声が聞こえる度に佐藤シズコは怯え、悲鳴を上げ、顔を引っ掻く。   【映像記録6】 六月十一日 三時からの映像記録  寝ている佐藤シズコの横に腰の曲がった老人が突如として現れる。  這いつくばるような姿勢を見せ、両手を使い畳を撫でている。  顔は目視出来ず。  三時四十三分まで、同じ動作を繰り返し突如として消える。  四時、佐藤シズコが目を瞑ったまま起き上がり畳を撫でる。 (雑音)  四時二十四分。小さな足音。  四時三十分。和室の扉が開く。開けた人物は映像に映らない。  佐藤シズコは、畳を撫でたまま嗚咽を挙げる。  四時三十一分二十秒。女児と思わしき音声。「おかあさん」  四時三十一分三十秒。女児と思わしき音声。「おかあさん」  四時三十二分二秒。女児と思わしき音声。「おかあさん」  四時三十二分四十三秒。女児と思わしき音声。「うまれたかった」  四時三十二分三秒。女児と思わしき音声。「おかあさん」  四時三十三分三十二秒。女児と思わしき音声。「おまえか?」  四時三十三分。佐藤シズコが悲鳴をあげる。  四時三十七分。佐藤シズコの悲鳴を聞いた佐藤瑞穂が部屋を開ける。
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