呪詛

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 4  映像を見終え、和室に向かい茶箪笥を移動させた。 「これは、酷いな」  後ろを見て藤原が呟く。箪笥の裏に刺さった穴だらけの写真一枚が貼られている。  被写体の一人を除き、針でズタズタにされたもの。  穴だらけで読みにくいが「二〇十八年四月十四日 家族全員で」と見慣れた文字が書かれている。  それには無傷の佐藤シズコだけがニッコリ笑い、カメラに向かって指でVの字を作っていた。  昆布に針刺す。という言葉がある。 「大辞泉」には、誓いを立てる時、人を呪う時などその印として昆布に針を刺し、それを井戸に沈めるか、昆布で人形を作り木に釘で打ち付ける。と、記載されている。  それは古くからあり浮世草子・好色五人女にも「井戸替けふことにめづらし(略)薄刃も出昆布に針さしたるもあらはれしが」ともある。  昆布で人形を作り木に釘で打ち付けるという文章で思い出されるものは藁人形を使用した丑の刻参りだろう。神社の裏の木に相手の名前、もしくは髪を入れた藁人形の五寸釘を打ち付ける。  けれど、現代でそのようなことをするのは少ない。髪の毛を入手するのも些か手間がいる、故に身近に使用されるのは写真だろう。  茶箪笥の後ろには、ひしゃげてしまったマチ針が幾つも突き刺さっており、中には零れ落ち畳に落ちている物もある。 「腰の曲がった頭の大きなハゲが座っていた……。付喪神かね」  そう言えば、空気を読めない二三(ふたみ) (かず)が 「マジ? ゲームでしか聞いたことないッス」  と、はしゃいだ。
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