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6
最後に皮田順子が行っていたという病院に向かう。
「あの箪笥は回収するンスか? 本当に呪いに使われてるなら、曰く付きってやつッスよ? 丑三つ時の木みたいな使われ方してたんですから、そーとッスよ」
「棄てるそうだ。俺も勧めておいた」
そう話をしながら、担当の医者と話を出来たのは、かなり待機してからだ。
「患者を待たせているのですが」
と、不機嫌そうにやって来たのは二三と変わらないだろう若い医者だった。
黒い艶のある髪に青い瞳。中性的に思わせるのは、その整った顔だろう。
二三が話をし出すと、医者は益々顔を険しくしていく。その表情を見、隣にいる二三がヒクッと目を痙攣させた。
ストレスが高くなると目が痙攣するという。
二三はまさしくその状態で、ストレス源はこの若い医者なのだろう。たしかに、この医者は独特な雰囲気を持っている。
物静かに見えるが、澄んだ青い瞳は全く笑っていない。それどころか敵対の色さえ窺える。
「個人情報です。協力が必要なのは貴方達ではなく、虐待を受けた子供達ではありませんか?」
正論に、二三は言葉が詰まっているようだった。
「彼女たち何回か警察に相談しているんですよ。なのに……。まぁ、いいです。彼女の診察をしたのは私ではありませんよ。精神科は担当ではありませんので。担当者をお伝えしましょう」
彼はそう言って歩きだしたため、藤原と二三は慌ててそのあとを追う。
「自分、あの人なんか怖いッス」
病院の廊下を歩きながら二三がそう呟いた。
「目が全然笑ってないし……」
藤原はその言葉になんと応えればいいのか分からなかった。
刑事の直感というのは第六感に近い。
証拠もないが積み重ねた経験から推測ができる。行動心理学とまではいかないが、Aの態度を示したならばBであろうとまで予測ができる。
そして、この目前にいる医者というのは、今まで自分達は経験した中で超常現象に触れてきた、被害者もしくは加害者たる目だ。
人に説明しても理解を得られなかった者は段々と人間不信を募らせていく。言葉や動作で人が良さそうにしても目だけは常に真実を語っている。
この医者は目だけではなく、態度も隠していないようであった。が、二三だけではない確信が持っていた。
「先生は、あの娘さんたちをどう思いますか?」
「どう思う? おかしな事を聞きますね。助ける道を提案する事こそが義務ではありませんか? ストレス源から離れて心身共安全で健やかな所に居させるんです。子供として、人間として大事な事ですよ」
「そのストレス源が亡くなりました。そこがちょっとおかしな――……」
「ここは病院です。少し言葉を選んでください。それに、言ったと思いますが、診断したのは私ではなく……失礼します。宮城先生」
医者はそう言って、精神科医の元へ案内してくれた。
以降は宮城医師による証言であるが、ろくに情報はくれなかった。
「個人情報なので……。たとえご家族の意向でも、医師として言えません。けれど、はい。妄想・幻聴は見受けられました。それしか言えません。詳しくはご家族から直接お聞きください。
さっきの先生ですか? 五条君? 若いのに努力家です。あんな性格をしているから誤解され易いんですが、患者には優しいんです。彼が、何か? あぁ、やっぱりキツくあたられたんですか。仕方ないです。虐待の件は五条君だけじゃなくて他の医師も、看護師もとても怒っていましたから」
その直後、看護師に呼ばれ宮城医師は退室された。
映像の記録から死因の直接的な原因は超常現象が引き起こしたものと判断された。そうとしか言いようがない。
表向きは夫婦からの虐待ではなく、自死である。
二つの夫婦は年内に離婚した。藤原は「俺達にはなんら関わりのないことだ」とだけ呟いてはいたが、その目は悲観に暮れていた。
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