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嫉妬
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F県M村。日曜日、夕方の散歩。
木下 麻里とその旦那である木下 一生はいつもの散歩コースを歩きながら夕飯について話をしていた。
犬の散歩をしている中年に二人は会釈する。
日は傾き、目を焼くオレンジが物や人の輪郭を奪う。
話題は夕飯から職場の後輩、そして今後の生活に移っていく。
ふと、草陰から物音がした。犬や猫でもいる。
その間にもガサガサと草が揺れ、葉は擦れ合う。すぐ後ろは林があるため、犬猫の他にも狸や鳥の可能性もある。
しかし、重なりあう草陰から見えたのは、赤く変色した人間の目だった。人にしては小さい。だが、子供にしてはその目はとても大きい。
ソレは麻里と目があうと、草陰から手を伸ばした。黒い、シワだらけで指の長い――……。
一生が麻里の腕を引いて走り出した。
「なんだったの?」
家に入り麻里はヘナヘナと座り込む。同じようにあの”何か”を見たのだろう。顔を青くする一生は、慌てて玄関の鍵をかけている。
「病気の猿かも。この辺に猿の目撃情報は無いけど……」
麻里が尋ね、一生は息を荒げ、答える。彼は額の汗を乱暴に拭い、ドア向こうの気配に神経を集中させていた。
少し経っても”何か”がやって来る気配はない。
一生は、ようやく安堵して麻里を見た。
「大丈夫」
そうして彼女の頭を優しく撫でた。
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