嫉妬

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 1 【状況報告】   家に何者かが襲撃。  一階の窓に向けて猫の死体が三つ発見される。どれも頭部と尻尾、胴体を引きちぎられており、野良であると推測。  最近で猫の虐待報告はない。  家に住む木下一生と木下麻里は非常に精神的に弱っていたが、それでも会話は可能であった。  大きく被害を受けたのは木下麻里であり、彼女の証言が重要となる。 【証言記録】  証言者 木下 麻里  あの日、あの猿のような何かを見つけた時の夜、夢を見たんです。私は夢の中で”何か”に片足を引っ張られていることに気がつきました。  足は掛け布団から出ていたせいなのか、足先がやけに冷えたのを覚えています。  ”何か”は私の左足首をしっかりと片手で掴んで話そうとはしませんでした。  一生の……夫の悪戯かと思いましたが、横を見ると夫が寝ているのに気がつきました。その間も、ぐいぐいと麻里の足は”何か”に引っ張られ続けていたんです。  ズズ、と、身体が引っ張られ始めました。  すごく怖かったです。片手で易々と……成人女性を動かせる訳が無いんです。  今更金縛りに襲われ、私の足を引っ張る”何か”すら蹴り飛ばせませんでした。 「うーうー」  その”何かは”言っていました。  獣のような声とも思いましたし、不満を持った子供があげる声にも似ていると思いました。話をしたいのに話ができない、そんな不満の声です。  夫に助けを求めたくても声が出ませんし、夫は寝返りをうってしまったのでその顔すら見ることはできませんでした。   「も――……、――……し――……」    と、”何か”が足首を引っ張りながら唸ったんです。  本当に不思議なことが起きたんです。私は掛け布団をかけて寝ているので自分の足なんて見られないのに、咄嗟に足を見たんです。なのに、まるで布団が存在しないかのように自分の両足が見えました。  そしてその”何か”も見えたんです。  緑色の斑点を持つ何かです。猿にも見えました、老人にも見えました。でも、それが私の限界でした。  目を覚ますと、足首にはしっかり握られた痕跡がついていました。  夫に相談しようにも彼はすぐに出かけて行ってしまいましたし、私はこれから病院に行かなくちゃいけないんです。  私は近くの総合病院に行きました。 「顔色が良くありませんね」と、お医者さんが言ってくださって私はもう限界でした。何かに足を掴まれたとみせると、看護師さんは驚いていたようでした。きっと家庭内暴力を疑ったのでしょう。 「私……きっと、寝ぼけていたのかもしれません」 「夜中、寝ている女性に跡がつく程、強く握る人はそうそういません」  先生はそう言って、何かあったらすぐ病院に連絡するよう教えてくれたんです。  家に帰ってうたた寝をしました。    どん。    どん。    そんな音が窓から聞こえて飛び起きたんです。    どん。    どん。    よせばいいのに、私は音の発生源に近寄ろうとしました。何もないと見て安心したかったんです。  ……ばん。  ……ばん。  震える足で窓に寄り、カーテンを少しだけめくりました。  小さな、小さな何かがぶつかってきたんです。  小石ほどの何かが窓ガラスにぶつかっては下に落ちていったので、恐る恐る下を見ると、小さな赤黒い塊がありました。(嗚咽が混じる)  ……考えたくもありません、私はそこで気を失いました。  夢の中にいると直感したんです。  先程まで家に居たのに、今いるのは山の中でした。裸足のまま山道を歩いていたんです。立ち止まってはいけないと思ったんですけど、怖くて足が動きませんでした。   「もう――……、も――……し……」    掠れた声が後ろから聞こえました。  生ゴミよりもっとキツい臭いがしたんです。 「も――……し……、……す……――」   振り返ってはいけない。しかし、恐怖で麻里の足がもつれ、呼吸が乱れる。 「あぁああああああ」    自身が挙げている鳴き声は、しだいに絶叫に変わる。  今にも捕まりそうで、今にも殺されそうで……。  泣きながら、転げそうになりながらも山道を駆け降りる。  それでも声は臭いは彼女を追いかけて離れない。  そんな夢でした。
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