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末松未知
「うわあ、きれい!」
末松未知は、山奥の紅葉を目にして嘆声を上げた。
ナナカマドやカエデの目に焼き付く赤は、街中ではなかなか見られない。
人里離れた山の中にこうして自然の生み出す美の極致が展開されるというのは、ある意味理にかなっている。
紅葉の赤い色は、葉の緑の色素クロロフィルが分解された後、アントシアニンという赤い色素が合成されることによって生まれる。
アントシアニンはブルーベリーに含まれる目に良い成分として知られているが、紅葉の色素となって目の保養となるということか。
いつまでも紅葉を眺めていたいが、山の昼は短い。ただでさえ秋の日はつるべ落としといわれるのだから、山ではすぐに日が暮れてしまう。
それに、未知が山へ来たのは紅葉見物が目的ではない。
UFO&オカルト愛好会MUU2(ムーツー)のメンバーとして、ある情報の詳細を調査することが目的だった。
MUU2は、秘密結社にも似た秘密主義の会で、全国に会員を有し、その情報は会員同士で共有するが外部に漏らすことは厳禁とされた。
未知はUFOこそ目撃したことはなかったが、MUU2を通じて数々の不可解な謎に遭遇した。
この無限の宇宙には、ちっぽけな人類の知りえない謎や神秘が数多存在すると、彼女は信じていた。自分の名前が「未知」というのも、偶然とは思えない。それくらい、未知なるものへの信仰にも似た畏敬の念が、彼女の心の中心を占めていた。
だからこんな山奥へレンタルしたキャンピングカーで単身やって来るのも、人智を超えた不思議な物事への熱い思いが恐怖を押しのけた結果だった。
今回MUU2の本部から未知が得た情報は、この山奥に透明な肌を持つ種族の生き残りが住んでいるということだった。
その種族は紅葉と同じく肌を赤や黄色に染めることができる。
百名足らずの種族は集落を作って世間から隔絶して生活していたが、今から80年ほど前、山にダムが建設された時、その集落はダムの底に水没することとなって、種族はこの地を離れていった。
ただ集落の外れにあって水没を免れた家の一家が唯一残り、今なお暮らしているという。
とすると、生き残った者は現在80を軽く超えているだろう。
おそらく、一人きりで世間から身を隠すように存在している。
それなら、マスコミのように無神経な好奇心をむき出しにした連中が踏み込んだりしたら、その者はひどく怯えてしまうだろう。
MUU2のように、マスコミとは一線を画した秘密を尊重する会こそが、その種族の生き残りを捜索するのにふさわしいのではないか。
未知はそのように自負していた。
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