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序
ペンライトの灯りが、そよ風吹く花畑のように揺れている。
音に身をゆだね、恍惚の表情を浮かべる観客たち。涙目で微笑む人もいる。彼らの視線の先で、将大が歌っている。
シーグラスみたいに半透明の、優しい手触りのする声がホールを満たす。将大が歌い終わり、スポットライトの中深く頭を下げると、熱狂的な、割れんばかりの拍手が湧き起こった。
目覚めると、枕が濡れていた。嬉しかったのではない。将大が手の届かないほど遠くに行ってしまったのが、悲しかった。夢を応援したのを、後悔していた。
将大を一番よく知っているのは私だ。一番愛して、大切に想っているのも私。なのに。
ついてくるのを許したのは、そんな私の欺瞞だ。
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