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鈴は構内に飾られた駅舎のジオラマを、物欲しげに眺めていた。鼻先がくっつきそうなほど顔を近づけて、ミニチュア世界の平和を脅かしている。
普通の人に、鈴の姿は見えない。師匠の息子でありながら、小さじ一杯分の霊感さえ持ち合わせていない将大にも、鈴は見えていない。
三条工務店のロゴの入ったバンに乗り込むと、東谷はエアコンの風を調整し、車を出した。
「貴船口からの方が近いんですが、今の時期はやめといたほうが無難ですわ。観光客やら料理屋の送迎バスやらで、ほっそい山道がわやくちゃになりますからねぇ」
丸く穏やかそうなフォルムとは裏腹に、東谷は曲がりくねった山道をかなりのスピードで飛ばしてゆく。対向車が来やしないかと、はらはらする。道の凸凹を乗り越える度、堅いシートの上でお尻が浮き上がり、隣の将大と肩をぶつけ合った。
「大丈夫か? 典ちゃん」
眉を寄せ、心配そうな顔で覗き込む。
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