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「もう小学生とちゃうから」
将大は私のことを実の妹のように可愛がり、大切にしてくれる。
一体、いつからだろう。優しくされる度に、苛立ちを覚えるようになったのは。
小さくため息をつき、窓の外に目をやる。こんな風に不機嫌になるなら、ずっと子供でいたかった。あの頃は将大と一緒にいるだけで、ただただ嬉しかったのに。
道路のすぐ脇を、澄んだ渓流が流れていた。木々の梢が幾重にも覆い被さって、洞窟のように奥へ奥へと続いている。
薄暗い山の斜面には、根こそぎ倒れた木々が交差して、ひっそりと苔に覆われつつあった。
何年か前に襲った台風の爪痕が、手つかずのままそこかしこに残されているのだった。
「おんなじ京都とは思えないわ」
鈴の言葉に頷く。
道はさらに悪路になり、しまいには舗装もされていない林道に分け入ってゆく。鬱蒼と茂った草木の奥に、錆びた鉄格子の門が現れた。東谷が車から降り、南京錠を外して戻って来る。表札のない門をくぐって暫く走ると、小さく開けた場所に出た。東谷はその隅で、ようやく車を止めた。
「オーナーさんも来るはずなんですが。まだのようです」
腕時計を見て言った。
「ちょっと電話してみますわ」
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