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忌まわしい過去の記憶が蘇ったせいか、三半規管が正常に機能していない気がする。
東谷を車内に残し、ステップから降りた瞬間、たたらを踏んで眩暈に耐えた。足元の落ち葉から水分が滲み出し、パンプスのつま先を濡らす。
蔦の絡んだ樹木が、怪物の群れのように私たちを取り囲んでいた。頭上で烏がアァと鳴き、尖った嘴で羽をしごくと、じっと私たちを見下ろした。
『うわ』
鈴が鼻をつまんで、思い切り顔を顰めた。
『腐ったどぶの匂いだわ。最悪』
鈴の感覚は、普通の人の何倍も鋭い。試しに深く息を吸い込んでみるが、私には湿った腐葉土の匂いがするばかりだ。
「何とも不気味な場所やな」
将大が耳打ちする。
「霊能者を呼ぶくらいだもの。陽気な場所であるわけないわ」
少し意地悪な気分で言った。
「それはそうやけど。しかし、何でここだけ丸く開けとんのや?」
不思議そうに周囲を見渡す。
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