1、狂家

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 忌まわしい過去の記憶が蘇ったせいか、三半規管が正常に機能していない気がする。  東谷を車内に残し、ステップから降りた瞬間、たたらを踏んで眩暈に耐えた。足元の落ち葉から水分が滲み出し、パンプスのつま先を濡らす。  蔦の絡んだ樹木が、怪物の群れのように私たちを取り囲んでいた。頭上で烏がアァと鳴き、尖った嘴で羽をしごくと、じっと私たちを見下ろした。 『うわ』  鈴が鼻をつまんで、思い切り顔を顰めた。 『腐ったどぶの匂いだわ。最悪』  鈴の感覚は、普通の人の何倍も鋭い。試しに深く息を吸い込んでみるが、私には湿った腐葉土の匂いがするばかりだ。 「何とも不気味な場所やな」  将大が耳打ちする。 「霊能者を呼ぶくらいだもの。陽気な場所であるわけないわ」  少し意地悪な気分で言った。 「それはそうやけど。しかし、何でここだけ丸く開けとんのや?」  不思議そうに周囲を見渡す。
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