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2月12日①
2015年2月12日は、冷たい霙の降る憂鬱な一日だった。
だが田仲秀子にとっては、憂鬱になっている場合ではない。何故ならそれは、「事件」が起きた日だったからだ。
田仲は安座富町中央病院で清掃業務を請け負う㈱クリーンラブの、現場リーダーである。
朝イチ、田仲は更衣室の一角で「今日も一日がんばりましょう!」とスタッフに声をかけると、朝ミーティングを終えた。
「ねえ田仲さん、アレ見た?」
声をかけてきたのは、同僚の三田村遠子だ。田仲は「何を?」と聞き返した。
「ハザードボックス、残されちゃってんだよね」
「え、どうして。昨日は回収日だよね」
ハザードボックスは、感染性廃棄物の回収箱だ。段ボール製やプラスティック製など三種類の箱があって、入れる物によって色の異なるバイオハザードマークが表示されていた。
「何が残ってるの?」
「段ボール。数箱が置きっぱなしだったんだ。忘れ物かなあ。今から見に行く?」
「そうしよう」
田仲らは清掃業務の傍らで、病院内のあちこちから一般ゴミやハザードボックスを回収し、廃棄物倉庫に集める。そこから、感染性廃棄物の場合は月・水・金、専門の運搬業者が専門の処分場まで運ぶのだ。
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