セクハラとパワーショベルの記憶

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 人間の頭なんて、重機の金属に比べると、もろいものだ。花田課長の頭がどうなったのか、大体は想像がついた。  現場を目撃した人の証言によれば、倒れた課長の体をパワーショベルのハサミが、まるで鳥が餌でもついばむように開閉を繰り返していたらしい。  瀕死の重傷を負った課長は病院に担ぎ込まれたが、その時はまだ息をしていて、亡くなったのは数日後のことだ。  工場長の木村さんはしきりに、「私が悪いんです!」と自分を責めていたし、工員は、「工場長は、ヘルメットを被るように言っていたんです。でも花田課長が、頑として被らなかったんです」と工場長を擁護していた。  ヘルメットを被っていたら、少なくとも頭蓋骨の損傷は少なかったように思うけれど、違うような気もする。  何をどうしていても課長は死ぬ運命だった気がする。
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