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5  船は、岸壁の下にある船着き場に着く。  大きな港は、もう少し先にあるように見えた。  船を降りたパシャは、紅の馬車に乗り込む。わたしは、あのギョロリとした目のけらいに襟首を掴まれ、彼の栗毛に乗せられた。  坂道を上がっていく。  灰色の屋根を持つ、赤茶のとても大きな建物が見えた。  綺麗……。  あれが「宮殿」なのかしら?  「なんてみごとなの」と、思わず口をついて、感嘆の言葉が洩れた。  すると、栗毛の手綱をゆるゆると引きながら、ギョロ目のけらいは、その大きな目をさらに大きく見開いて、カラリとひとつ笑う。  そして、「ジャミィ」と言った。  多分、そんな風に言ったのだろうと思う。わたしにはそう聞こえた。  「じゃみい?」と、わたしは訊き返す。  けらいは、「イヴェット、ジャミィ」と言って頷いた。  それから建物を指さして、「ジャミィ、チョック・ギュゼル」と続ける。  今、耳にした三つの言葉の意味を、わたしは色々に考える。  するとけらいは、わたしを見おろしてから、もう一度「チョック・ギュゼル」と口にすると、急に、ふいと横を向いてしまった。  きっと「ジャミィ」というのは、あの大きな建物の名前なのだろう。  わたしはとりあえず、そんな風に納得する。そして、「じゃみぃ、ちょっく・ぎゅぜる」と繰り返してみた。  怒鳴られているときには気づかなかったけれど、この国の言葉は、わたしの耳には、とても可愛らしく響いた。  意味も分からないままに、ちょっく・ぎゅぜる、ちょっく・ぎゅぜると、口の中で繰り返していると、じきに馬の脚が止まる。  たどり着いたところは、ちいさな宮殿だった。  すくなくとも、わたしの目には、そう見えた。    *
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