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『──いつか、銀色の猫に会ったら仲良くするんだよ』  時々、夢に見る遠い遠い昔の記憶。顔も思い出せないほど薄ぼんやりしているけれど、心地のよい優しい声でそう言いながら、寝ぐせだらけの頭をそっと撫でてくれる。一緒にいられることがただ嬉しくて、男性の足元にぎゅっと抱きつく。すると、今度は隣に寄り添い微笑む、これまた面影だけの髪の長い女性が、楓人の肩に柔らかい掌を添えてくれるのだ。とても温かい。  そんな三人の傍にもう一人、楓人と背格好の似た子供がいる。その子供は、ムスッとした表情を隠さずに拗ねているので、こっちにおいでと手招きすると、満面の笑みを浮かべて飛び込んでくる。幸福感に満ち溢れている。  目を覚ますと忘れてしまうため、もう少し見ていたいと夢の中で必死に葛藤するも、差し込む朝日と目覚まし時計に邪魔されて、宮内楓人は起床した。
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