主寝室にて……

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主寝室にて……

 いつもならトレーニングをしてからお風呂に入って眠る。それは、レイモンドも同様である。  汗をかいた後にお風呂で汗を流し、さっぱりして眠る。  当然の心理よね。というよりか、常識よね。  だけど、この夜は違った。  ここのところいろいろありすぎて疲れている。だから、トレーニングをする気になれない。トレーニングをサボる言い訳かもしれないけれど、とにかくいろいろありすぎた。  レイモンドも同じだったみたい。  お風呂に先に入れと言ってくれたので、甘えた。  お風呂から出ると、侍女があらたに湯を入れ直し、彼が入った。  その間、どうしても耐えられなかった。眠気に、である。だから、寝台に横になった。横になってレイモンドを待つことにした。  待つ? どうして待つの? 待つ必要なんてある?  そこまで考えたとき、意識を失った。  意識を取り戻したとき、意識(それ)を失ってからどのくらい経っているのかわからなかった。寝室内の灯火が消えている。だけど、テラスへと続くガラス扉や窓のカーテンが開いたままなので、月光がやさしく射し込んできている。灯火はなくても、室内の様子を探るのに不自由はない。  ムダに広いキングサイズの寝台の上には、わたししかいない。  もしかして、まだそんなに時間が経っていないのかしら。レイモンドは、まだお風呂に入っているとか? 侍女が気をきかせて灯火を消してくれたのかもしれない。  だけど、物音がしない。  大扉と窓の向こうで、かすかな虫の音がするだけ。少なくとも、人為的な音はしていない。  耳をすますのに精神を集中してみた。寝室内や浴室で音はしていない。  上半身を起こし、寝台からおりようとした。とりあえず、浴室をのぞいて見ようと思ったのである。  両足を大理石の床におろしたとき、何かを踏んづけた。 「ぐわっ」  小さな悲鳴が起ったので、単純に驚いた。 「どうしてこんなところに寝転がっているの?」  レイモンドが、床の上に横になっていたのである。  だれでも疑問に思うわよね? 「尋ねる前に、おれの腹の上から足をどけてくれないか?」 「まさか床にあなたがいるなんて思わないでしょう?」  とりあえず、寝台の上に足を上げてそのまま胡坐をかいた。  レディだったらぜったいにしない座り方だけど、ラクなのよね。  すると、彼も寝台に上がってきて同じように胡坐をかいた。 「ご家族のこと、すまない」    レイモンドが唐突に謝ってきた。 「おれが行って連れてきたかった」 「わかっているわよ。だいたい、そういうことは王太子がすることではないわ。そんなことをさせたら、それこそわたしは悪妻よ。リュックとラザールがうまくやってくれる。あなたの大親友と、それから剣術と体術の師匠なのでしょう? あなたが彼らを信じているように、わたしも彼らを信じているから。レイモンド、ありがとう。感謝しているわ」  なぜかこの夜は素直になれた。  きっと彼が素直だからね。 「いや、いいんだ。ああ。二人なら、かならずやうまくやってくれる。それはそうとご家族がやって来たら、すごしてもらうのは客殿の方がいいかな? それとも、本殿の方がいいかな?」  向かい合う彼の美貌に必死さがうかがえる。  そんなことを考えるのは、もっとあとでもいいのに。  思わず笑ってしまった。彼は、その笑いの意味に気がついたらしい。  照れ笑いを浮かべた。  それがまた可愛らしく、ドキリとしてしまう。 「この前の地下室で、アルフォンスを殺すところだった」  彼は、またしても唐突に告白してきた。しかも、真剣な表情で。
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