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そんな業務から逃げられない菊村は、他人事である久米に向かって「できることならこの役目代わってほしいところだよ」と言った。
「ところで______」と、薫は菊村に話しかけた。菊村がそれに反応すると、彼女は被害者の傍らにあった“ぬいぐるみ”を指差していた。そしてそれは奇妙なことに、被害者とまったく同じ格好をしている“ぬいぐるみ”であった。
「何なんだ?それは」
菊村がそのぬいぐるみを手に取り呟くと、「たぶん、それのコスプレをしてるんですよ。被害者は」と、薫は答えたのである。
「じゃあこのぬいぐるみは何かの漫画のキャラクターなのかい?」
「漫画というより、アニメですね。少し前に深夜アニメで入ってたんですよ。すごい人気があるから、また新しいアニメが入るところでした。被害者はそのこともあって今回このコスプレをしたんじゃないでしょうか」
『深夜アニメ』という言葉は、菊村にはあまり馴染みのないものであった。そもそも、アニメや漫画といったものに馴染みがない菊村にとって、今回の事件はどうも後手後手に回ってしまう。彼にとって、右も左もわからないものばかりであった。唯一、これが極めて残酷な殺人事件であることだけわかっていたのである。
薫はそのぬいぐるみを眺めながら、「まさか犯人は見立て殺人にしようとしたんでしょうか」と言った。
「見立て殺人?じゃあ犯人は被害者を殺害してからこの人形のキャラクターの格好をさせたってのか?被害者の手足はロープで縛られてるんだ。この格好させるのは結構大変だと思うが」
被害者がしている格好は、いわゆる、ゴシックロリータファッションで、黒を基調としたフリフリのドレスである。もし、元々被害者が普通の格好をしていて、殺した後にこの格好にさせたのなら、労力としては極めて大変である。
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