繋がらない被害者たち

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そう考えると、その可能性は低かった。犯人としては、人を殺したのだからすぐにでもこの部屋を後にしたいと考えるはず。それなら尚更この可能性はあり得なかった。 このラブホテルの従業員は、恐らく還暦は超えているであろう老女で、話を聞いたが耳も少し遠く、何度も聞き返す様子であった。その老女は、菊村の「あの部屋に入ったカップルはどんな人たちでしたか?」という質問に対して丁寧な口調でこう答えた。 「えぇ。たしか、女性の方は妙な格好をしておりました。今の若い人たちの流行りかと思いましたよ。お相手の方は、普通な服装でしたが。顔はマスクをしていましたし、帽子も被っておられましたから、はっきりとは見えておりません。いかにもアベックといった感じの仲の良さそうなお二人でした。うちは、入室した際に部屋のシューターで料金を支払ってもらう方式ですから、私たち従業員がお客様と関わる場面は詰所に部屋から電話が来て、何かしらの要求に応える時しかないのです」 「じゃあ、あの部屋からフロントに電話は来ましたか?」 「えぇ、来ましたよ。あの時はたしか、夜中の11時頃だったでしょうか。先に一人出ますってお部屋から電話が」 恐らく犯人は被害者を殺した後、その電話をかけてから堂々とホテルを出たのだろう。このラブホテルには、古いということもあって防犯カメラはどこにも付いていない。これでは犯人がどんな人物なのかまったくわからない。菊村はその人物の見た目についてその老女に尋ねた。すると、老女はまた丁寧な口調で答えた。 「見た目ですかー。それはさっきも言ったように、マスクをしていたから顔はほとんど見えなかったんですよ。身長は170センチくらいだったでしょうか。何せ、詰所のカウンター越しに話しただけですから」
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