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新しい生活 前編
優梨にプロポーズしてもらってハワイで挙式をしたからと言って何か変わるわけではない。
婚姻届けも随分前に提出していたし、一緒に住んでいるのもなんだかんだでもうすぐ一年になる。
変わったことはと言えば私の薬指に光リング。
「なんでニヤケてるの?」
はっとして顔を上げるとスーツ姿の優梨がダイニングテーブルに手をついて爽やかな笑顔を私の方へ傾けていた。
「おかえり」
「ただいま」
「ごめん気付かなくて」
優梨は私の前に座って指を差す。
「そんなに嬉しかった、それ?」
私は指輪を見て微笑んだ。
優梨に自分の気持ちを隠す必要はない。そう思えるようには私の心も成長している。
「うん。丁度ね、お母さんがハワイの写真、アルバムにして送ってくれてさ、なんか懐かしくなって」
「まだ一ヶ月も経ってないじゃん」
「うん。でも懐かしいんだ。色々」
何も変わらないからこそ変わらないでいられるということが尊く感じる。
数ヶ月前までは優梨と離れ離れになることばかり考えて、考えすぎて空回って、三月に優梨の家に呼ばれた時も不安で一杯になった。
でも今は、両家に認められ、優梨に愛されて私は世界一の幸せ者だと感じられる。
「俺にも見せて」
優梨はテーブルの上に置かれていたミニアルバムに手を伸ばし、ペラペラとめくっていく。
「なんか俺と優醍ばっかじゃない?」
「あ~それはごめん。お母さん何を隠そうイケメン好きだから、自然とシャッター押しまくったんだと思う」
優醍君も優梨に負けず劣らずのイケメンだ。
それにしても気になるのは常に不満そうな優醍君の目つき。
「優醍、葵ばっか見てる。惚れないように釘打たなきゃ」
優梨はスマホを手に取った。
「待って待って、違うと思う。どちらかと言うとお兄ちゃん取られて怒ってるって感じじゃないかな」
「優醍が葵に嫉妬? ……それはそれで面白い」
にやける優梨はまんざらでもなさそうだ。
私の面倒な性格を受け入れられる優梨が不思議でしかなかったが、ハワイでほんの少しだけれど優醍君を見ていて何となく理由が分かった気がした。
優醍君も中々の面倒なタイプなようだ。
無口だし、頭が切れるからか要点だけで言葉が短い。そんな弟を愛してやまない優梨はそういうタイプに慣れていたのかもしれない。
そして優醍君も優梨の事が大好きで仕方ないというのが同類だからか私にはひしひしと伝わってきた。
お兄ちゃんを悲しませたらただじゃすまないぞという視線やお兄ちゃんが構ってくれないという寂しそうな目の動きがなんとも可愛らしかった。
まあ、本人は私に気付かれているなんて微塵も思っていないのだろうが、お義姉ちゃんは分かるぞ。なんたって経験者だからな。
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