新しい生活 後編

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新しい生活 後編

 私が優醍君の兄への愛情表現に対する拗らせ具合を考えながら一人ニヤニヤして考えていると優梨は既にスマホで誰かを呼び出していた。 「もしも~し優醍?」 『何?』 「冷たいなぁ。優醍の大好きなお兄ちゃんからのラブコールだよ」 『……』  スピーカーになっていたスマホからはプープープーという音が鳴っている。  素早く優梨はかけ直す。 「いきなり切るなんて酷い」 『何? 忙しいんだけど』 「たまには息抜きしないと死んじゃうよ」 『適度にしてるから心配しないで』  一旦は切りながらもちゃんと電話に出て会話しているところがなんとも可愛らしい。 「う~んでも心配だから今度一緒に遊園地でも行こう」 『行かない』 「水族館?」 『興味ない』 「映画?」 『何? 葵さんが相手してくれなくて暇なの? 別れるの?』 「俺らは一生一緒だよ。それに今葵も聞いてるよ」 『はぁ? 何なの? 二人で暇なの?』 「すみません。私は止めたんですが」 『ああ、そうですか。逆に兄がすみません』 「いえいえ。お忙しいのにこちらこそ止められなくてすみません」 『大丈夫です。慣れているので』  何故か優梨がスマホを手でおおいかくした。 「え? 何?」 「ダメ」  むすっとした優梨が私に疑いの目を向けてきた。 『聞き取りずらいのですが、喧嘩でも始まりましたか?』  ゆっくりと優梨がスマホから手を離す。 「優醍にはちゃんと言っとかなきゃと思って」 『会社継ぐ気にでもなった?』 「それは無い」 『なら何?』  私に近付くなとか言う気だろうか。  なんかこの流れだと私が勘違いして優梨に相談したという誤解が生じないだろうか。  誤解が生じないにしても優梨の愛を優醍君にわざわざ見せつけるかのようでなんだか恥ずかしい。 「優梨、わた——」  私の声をかき消すように優梨は優醍君にどうしても伝えたかったことを大声で伝えた。 「俺は優醍君が大好きだよ。ずっと可愛い弟で、かっこいい弟で、何があっても優醍の味方だよ。いつでも俺に頼って甘えてきていいからね。大好きだよ。愛してるよ」 「……」 『……##』  ヤバっ、恥ずかしい。  自分への愛を弟へ伝えられると恥ずかしがっていた自分が恥ずかしい。  でもそんな私よりもきっと優醍君は兄がどれだけ自分を愛しているか兄嫁を前に熱弁されていることに羞恥心を覚えているはずだ。 「あれ? なんで黙ってるの? 優醍は? 俺のことどう思ってる?」 『……すみません。こんな兄で。大変だと思いますが、兄の事よろしくお願いします』 「は、はい」  スマホからはプープープーという電子音がこだました。  目の前の優梨はニヤニヤとしている。  こんな反応するというのもお見通しなのか、どんな反応でも可愛い弟は可愛いのか。 「あはは。お兄の事よろしくだって。あ~良かったぁ」  何が良かったんだ? 同類の私にでも分からない何かを優梨は感じ取っているのだろうか。 「俺って愛されてるねぇ」  優梨という人物は底知れない何かを持っていそうだ。
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