告白の返事 前編

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告白の返事 前編

 すっかり忘れていた。  自分のことで精一杯で、大事な事を忘れていた。  私、シェフこと野風大輝さんに告白されておりました。  いや、もう随分前のことだし、今更ながらなのだが、遠くにいるシェフの視線がひしひしと左手薬指に注がれているのではっきり伝えなければいけない気がしてならないのだ。  いつもは報告だけを真子からもらって電話やメールで済ませているのだが、定期的に訪問も必要でその定期が訪れ現在カフェに来ております。  これまで何度か来ていたが、ハワイ挙式後は初だった。  毎日指輪をつけて出社しているので今日もいつものようにつけてしまった自分に落ち度がある。  しかも真子って優梨のこと好きだったよな……。  去年の夏にビーチに行ってからはなんだか素っ気なくなった気もしたが、過去に好きだった人のお嫁さんが知り合いってどんな感覚なのだろう。  その経験が無いから想像できない。  真子はいつも通りハキハキと報告してくれるが、あの真子が指輪に気付かない訳がない。  仕事中だから敢えて気にしないようにしてくれているのだろうか。  それとも私には全く興味ないから気に留めていないのだろうか。  でも真子はある意味キューピットのような事をしてくれた。  あの日、優梨の誕生日に企画された旅行に拗らせ100%で行きそびれた私の所に優梨を連れてきてくれたのは真子が優梨のいるグループチャットに連絡してくれたからだ。  どちらにしても優梨は浮気していなかったし、母を家に連れて来ていたのだろうけれど、あの時私が自分を解放できたのはここに優梨を連れて来てくれたから。  お礼したいけれどお礼すらおこがましいような気もするし、ああ本当難しい……。 「ねぇ、葵ちゃん聞いてる?」 「あっごめん。でも、大丈夫。データ見る限り販売も順調だし、固定客もついてるし、問題はなさそうだし」 「問題はあるよ。大ありだよ」 「え? どこ? 見落としてる?」 「うん。カフェを不倫相手との密会の場にされるのは絶対許せない」 「ん? そんな話してたっけ? でも、不倫客はお断りなんて看板出せないし」  真子は、はぁとため息をつき後ろを指さす。 「大輝さんをチラチラみて、心ここにあらずな葵ちゃんのこと言ってるの」 「は? 私? 見てない、いや、見てたけど、見られてたから見てただけで」  私は何もやましいことはしていない。  って、あれ? 大輝さんって結婚してないんじゃなかったけ? 彼女もいないって。  でもあれから随分経ってるし、彼女が出来ててもおかしくないよね。  結婚も人のこと言えないくらい私も出会ってから一瞬だったし。
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