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告白の返事 後編
シェフは驚きながら何かを納得するかのように頷き始めた。
「そ、そうですか。結婚してたんですね。えっといつから?」
「えっと、昨年の私の誕生日なので夏に……」
うわ~もしかしてシェフは気付いてなかった? てか、何に気付いてたの? え? 何なの?
「夏……、あはっあはは、そうですか、夏、夏に……」
「す、すみません」
「いえ、大丈夫です。はい。これからも仕事頑張ります」
シェフはふらふらと控室を出て行った。
するとすぐに真子が飛び込むように入ってきた。
「何? 葵ちゃん、大輝さんに何言ったの?」
「えっと昨年夏に優梨と結婚してたって」
「はぁ? 初耳何だけど。どういうこと? 何? 大輝さんの舌壊れたらどうしてくれるの?」
その後は平謝りしながら真子の質問に答える形で婚姻届けは出したが色々とあって皆には内緒にしていた事、挙式は色々と落ち着いた後に挙げた事、披露宴は別で行うことを説明した。
「色々がありすぎて分かんないけど、分かった。ずっと私達を騙してたんだね」
「ごめんなさい」
「まあ、葵ちゃんが隠してたってことは余程の理由があるんだろうけど、披露宴するんだよね」
「うん」
「じゃあ呼んで」
「え?」
「優梨君、イケメンの兄弟いるよね。写真でちらっと写ってたけど、優梨君とは違うタイプのイケメンでビビッと来たんだよね」
ビビッと来すぎでは?
「騙してた事悪いと思ってるんだよね?」
「はい」
「じゃあ、招待状よろしく! 大輝さんは後で慰めとくから」
「ありがとうございます」
真子ちゃん、優醍君は性格も優梨と真逆で大変そうだよ、なんてことは言わないでおこう。夢は長く見ていられる方が幸せだ。
それに案外お似合いの二人かもしれない。
真子よりも気がかりなのはシェフだ。
大丈夫だろうか。あんなにショックを受けるとは。大変申し訳ないことをした。
会社に戻る前にシェフが気になり厨房を覗くと、真子が苦笑いをうかべたシェフと楽しそうに話している姿が目に入った。
そっとホールに戻り、店内を見渡して懐かしい日々を振り返りながらカフェの扉を開いて外に出た。
「お疲れ様」
「優梨」
優梨がにっこり微笑みかけてくる。
「仕事でここら辺通ってついでに寄ろうかなって思ったら葵に会えた。運命共同体」
えへんという言葉が聞こえてきそうなほどご満悦な優梨。
「皆に挨拶して——」
カフェに入ろうとする優梨を止めて、歩き出す。
「何? 嫉妬? 大丈夫だよ。俺には葵だけだから」
「今はタイミング悪いから、お茶したいなら別のとこ行こう」
「一緒に行ってくれるの?」
「うん」
先ほど話したことも説明したいし、ちょうどお昼時に会ったのも何かの縁だろう。
久しぶりに夫とお昼過ごしたくらい会社だって何にも言わないだろう。
「ガーリックステーキ以外で」
「え? お昼一緒ってこと? わぁい!」
所かまわず、遠慮なく抱きついてくる可愛い優梨に顔を火照らせながら、微笑み返した。
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