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『今年も向日葵が咲きました。』
そんな手紙が写真と共に届いた。
向日葵は元気に太陽に顔を向けて、キラキラ煌めいている。
大きな白い帽子に真っ白なワンピース。袖や襟から僅かに覗く肌は白く、絹の様にしなやかで美しい。
背景の大きな屋敷と向日葵が彼女を更に美しく魅せる。それは正に一流芸術家の描いた絵画だ。
とても眩しい、美しい、幸せそう。だからこそ悲しい。だからこそ苦しい。だからこそ悔しい。
私はどうして彼女を止められなかったのか?もし私が早く気付き、止めて、逃がす事が出来れば、それが無理でも彼女に引導を渡す事が出来ていれば、彼女はあの場所から逃げられた。
今も彼女が囚われているのは、私が無力だからだ。
私には、彼女が真に笑えている様に見えない。
私は無力で無能で無意味な探偵だ。
私はなんて幸せ者なんでしょう?
努力をすれば報われると教えて貰った幼少期、友人知人に祝われての結婚式、屋敷で花を育て、伴侶を待つ日々。理想の人生。私の日々は楽しくて美しくて満たされている。
彼女は凄惨だ。
親に捨てられ、親戚の元で育った彼女は保護者から虐待を受け、中学の頃から身売りを強制され、稼げなければ追い出すと脅された。
それが噂になり、同級生は標的と成り得る彼女を暴力とストレス的にした。
そんな彼女は若くして実業家と結婚した。調べたところ、訳ありの息子を結婚させたい実業家と保護者の間で取引があった。当然彼女の意思はそこに無い。
結婚式には学生時代の友人や知人を名乗る人物が現れて金の無心。
屋敷をあてがわれ、彼女は外に出る事を許されずに屋敷に囚われ、伴侶は外で浮気三昧。挙句に家に帰った時には愛情表現の名の元に暴力を振るわれていた。
しかし、彼女は悲しまなかった。悲しめなかった。
生まれた時から価値観を保護者から、客から、同級生から、伴侶から、押し付けられ、それが不幸せだと疑えなかった。
だから、それは起きた。
今、彼女の伴侶は居ない。行方知れずという事になっている。散々放蕩をしていた息子に呆れて両親は心配していない。しかし、彼女を追い出すのは世間体を考えてしない。
だから、彼女が伴侶へ向けた精一杯の愛情表現の結果を知らない。
知っているのは偶然彼女の友人になり、向日葵の中でそれを見つけた私だけ。
私は真実から目を背けた。
真実を暴けば、彼女は不幸になる。これ以上彼女から幸せを奪いたくない。
私は受け取った手紙を机に仕舞う。
これで、3通目だ。
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