一人目の相談者

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「では今日はこの辺にしましょう。奥様としっかりお話をした後、私たちを呼んでください。一応次にご自宅に伺う日が決まっているんですよね」 「決まっています。でも、直樹さんは奥様にこの件を伝えるということなので、もし予定がずれ込むなどあれば事前にご連絡ください」 「…分かりました。色々とご迷惑をおかけしました。家族に不幸が続くのは俺のせいだったんですね」  肩を落とし、自分の分のコーヒー代金をテーブルの上に置くととぼとぼと歩いて店を出た。 「つまり…直樹さん、不倫していたってことですか」 「そうなりますね。終わったと思っていたのは直樹さんだけで、不倫相手はそう思っていなかった。遊ばれたと思い、憤慨するのも無理はありませんが、どっちもどっちといったところでしょうか。どちらも身勝手なのです。それが人間だと言われてしまえばそれまでですが」  愛美は先ほど運ばれてきたコーヒーに手を伸ばして、ようやく落ち着きながら飲み始めた。それを見ながら、加瀬と有希もコーヒーを飲みだした。 それにしても人は見かけによらないとはよく言ったものだ。いや、それはこちら側が勝手に抱いていた理想であり本当の彼を見て勝手に幻滅しているだけではないか。  結局、愛美が言うように人間という生き物は身勝手で愚かな生き物なのかもしれない。 「直樹さん、奥さんに本当のこと話すのでしょうか」 「あの様子じゃ話すんじゃないか?それを知って奥さんの智恵さんがどうするのかはわからないが」 「そこから先は私たちの仕事ではありませんから。ご本人たちに任せましょう」  愛美はにっこりと口角を上げた。 ♢♢♢ ―数日後  加瀬と有希はパソコンの前で噛り付きながら仕事にあたっていた。 連載の文章を考えるのは有希で、写真の配置など最終的な手直しは加瀬だ。  どちらも仕事に追われており、ここのところ帰りが遅い。 そのせいで、呪われた家で撮った動画をまだ見返すことが出来ていなかった。  連載と言ってもページ数は限られる為、近隣住民への取材とその様子、何故呪われた家と呼ばれているのかその原因となったユーチューバー失踪事件と掲示板の書き込みなど調べるとわかるようなことを文字に起こしていく。 「とりあえず次が気になるように書いておいて」 「分かってます。加瀬さんは途中まで動画確認しておいてくれてるんですよね」  キーボードを叩く音が絶え間なく狭いフロアに響き、お互い顔を見ることもなく会話を続ける。 それほど、切羽詰まっているのだ。 「途中までだけどな。何も写ってないし、それらしき声も入ってない。だから呪われた家の連載は幽霊が出る!っていうのではなくて、ヒトコワ系で行く。最初の連載ならあまり気にする必要ないけどその次からはそれなりに構成練っていかないと」  加瀬は完全にある程度の筋書きを既に作っているようだ。 幽霊を見たわけでもその後有希たちに不幸が降りかかってきたということもないからだろう。呪いなどという恐怖が自分たちに降りかかってくるのは勘弁だが実際何もないという結果だから仕方がない。 とはいえ、あの家は異質だ。  不自然な増改築に、あの六畳ほどの外から鍵を掛けることの出来る仕様の部屋、家族は夜逃げのような形で行方不明。 それをまとめながら、あの家にはどうしても近づきたくないと思ってしまう。
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